フローの現在価値のほうが重要

私は「生涯の財産」ということをよく考えますが、金融資産というのはあくまでもそのときのストックを指すものにすぎません。

これはよく言われていることですが、金融資産よりも、その人がどのくらい、将来お金を稼ぐことができるかというフローの現在価値のほうが、資産面で言うと実はより重要なのです。

つまり、年金生活の問題は、フローの現在価値が一定の数値に決まっており、それ以上まったく増えようがない、ということなのです。

もし、自分の稼ぐ能力が年を経るごとに衰えないどころか、だんだんと経験を積んでいき、逆に上がっていくのであれば、長生きをすることのリスクは少なく、むしろリターンの多い、好ましい状況だと言えるでしょう。歳を取ること自体が、歓迎すべきことになります。

このように長生きリスクを避け、長生きリターンを享受するためには、どんな収入体系を作っておけばよいのか、30代~50代の間が勝負と言えるでしょう。30代、40代、50代とやっておかなければいけない長生きリスクへのマネジメントが、そこにはあるのです。

長生きリスクその3  社会的つながり減のリスク

次は、3番目の社会的つながり減に対するリスクについてです。この社会的リスクについては、意外と警戒している人は少ないのではないでしょうか。

身体的リスクについては、本人の予防措置や努力次第でどうともなりますし、金銭的な部分では健康保険だってあります。また、金銭的リスクについては、一応、最低限のレベルは、国が年金というかたちで保証してくれています。

しかし、社会的なつながり、人間関係の構築については、残念ながら政府は何も保証してくれません。人間関係は、本人の努力ももちろん必要ですが、相手もあることですから、それだけではだめでしょう。また、私たちは高齢になればなるほど、若い人たちからは敬遠されがちだということについては、十分に自覚する必要もあると思います。

老化の大きな問題は、何も筋力の衰えといった体力的なことだけではありません。脳には認知や思考、判断し行動する機能を司る前頭葉という領域がありますが、歳を取ると特にこの部分が衰えやすくなるのです。

前頭葉の大部分は前頭前野と呼ばれる領域で、人間の大脳のうち約30%を占めています。この前頭前野を含む前頭葉が衰えるということは、もの忘れが増えたり、思考能力が低下したり、感情のコントロールが効かなくなるので、キレたり、感情的になったりします。

なかでも社会的なリスクとして問題になるのは、やる気の低下でしょう。さまざまな社会事象に対する興味も薄れてしまい、考え方はアップデートされません。若い人たちにとって、そんな頑固で保守的な年上の人間と付き合うメリットはありませんから、当然、新しい付き合いもなくなるでしょう。

結果、年老いた人たちは、同世代の人間たちとばかりつるむこととなりますが、同世代の人たちも同じように年老いています。

亡くなってしまったり、病気になったりする人も増えてきますから、新しい付き合いができない人は、老後の期間が進むにつれ、どんどん孤独になっていきます。同世代の人としかつるめない高齢者というのは、若年層の人たちには魅力のない人たちです。そういう人たちがつるんでいるわけですから、ある意味、魅力のない人たちの集まりでしかない。

社会的なつながりとしては、代わり映えもせずに面白くもない。そして、自分もその一員と思われているということで、自己肯定感も下がってしまうでしょう。