長生きリスクその1 身体的衰えのリスク

まずはその1の身体的衰えのリスクからです。

身体的衰えのリスクは、老化が人間について回る、死に至る慢性病であるからこそ、人生の最後まで回避することは不可能です。それは、人間も含めた動物すべてがいまのところ、みな死すべき定めの存在だからです。

しかし、その老化スピードをコントロールすることは可能です。老化スピードをうまくコントロールしながら、頭だけは柔軟に保ち、身体的な衰えを経験と知恵でカバーしながら歳を重ねること。これが、長生きリスクのうち、身体的な衰えのリスクへの対処法と言えるでしょう。

長生きリスクその2 金銭的収入減のリスク

次は、2番目の金銭的収入が落ちるリスクです。

いまでも多少、その慣例は残っていますが、かつての日本は年功序列が当たり前で、歳を取るとともに収入も上がっていく時代でした。この時代は非常に長かったのですが、現在は新卒から入社年数が経過したとしても、大した昇給は望めない時代になっています。自分でしっかりとしたスキルアップや転職、独立などを重ねないと、一向に収入は増えません。

その反面、年功序列システムが崩れたということは、逆に個人事業主にとっては、インターネットなどを駆使してさまざまな方法で小規模ながら事業を起こすことができるようになりました。

また、それにつれて年齢差別もだんだんとなくなってきました。そのため、本人の希望と覚悟、そして戦略さえあれば、本当に頭や身体が動かなくなる、死に至るその直前まで、現役の仕事を行うことだって可能になったのです。

仮に定年後も自由自在に頭も身体もよく動き、さらに仕事も楽しければ、わざわざ定年だからと仕事をやめる必要もないのです。勝手に「定年」なんて年齢の区切りを作る必要はありません。むしろ、定年後のほうが、これまでの経験や知識の蓄積を生かして、社会に貢献し、楽しく仕事ができるようになるでしょう。

では年金生活における最大のリスクとは何かというと、月々の収入は増える見込みがほとんどないということです。つまり、よい変化が期待できないのです。

私たちは、そもそもどういうときに幸せを感じるのかというと、現状よりもよい生活が手に入るという希望がある、そうした希望が感じられるときにより多幸感が強まるようになっています。

人類の進化を考える進化人類学という学問や心理学の研究蓄積からわかってきたことなのですが、私たちの生体には、安定した状態に保とうとするホメオスタシスという性質があります。恒常性とも訳されますが、これは逆にいえば、一度得た幸せな状況や環境にはすぐに適応し、慣れて不感症のような状態になってしまうことを意味しています。

だからこそ、より高みを目指しよい生活を送ろうと努力を積み重ねてきたことが、今日までの人類の発展と進化につながっているのだそうです。

ですから、多少収入が低かったとしても、その後に増える見込みがあるときのほうが、安定した収入があるけれどもこれ以上増える見込みがないときよりもずっと幸せを感じやすいのです。

この意味で言うと、年金生活の問題点は、必ずしも収入は潤沢ではないうえに、さらに増えていく見込みがない、ということなのです。

そのため、収支の差分については、これまでの蓄えを少しずつ切り崩して使うことになります。自分の資産がだんだんと目減りしていくのを好ましいと思う人はどこにもいないでしょう。