人とは違う努力が武器になる

——「トップを目指さない」という戦略が、ズバリ天真さんにハマったんですね。

【天真】大勢で舞台をつくっていると、主要キャスト以外のつくり込みは、おのおのに任されることが多くなります。どんなおじさんにも生きる背景があり、心模様があり、その言動に至った理由がある。そこに思いを馳せ、まずは演出家の先生に「こんなおじさんだから、こんな見た目にしたい」と相談します。そこで「OK」が出たら、衣装部のスタッフさんやひげなどをつくる床山さんと打ち合わせ。私の妙なオーダーが新鮮だったのでしょうか。C.W.ニコルの写真を見せて、「こんなひげにしたい」なんて言うと、すごく面白がってくれました。「お、やるね! よっしゃ、つくってやるよ!」と(笑)。スタッフの皆さんと早いうちからワクワク感を共有できたのは、大きかったかもしれません。

——人と同じ努力ではなく、人とは違う努力をすることで、天真さんは「自分だけの強み」を手に入れることができたのかもしれません。

天真みちる『こう見えて元タカラジェンヌです』(左右社)
天真みちる『こう見えて元タカラジェンヌです』(左右社)

【天真】当時は探究心だけで突き進んでいたし、誇らしい気持ちなんてなかったけど、今、王道にできる長い列に素直に並んでいる若い子たちを見ると、何かもうひとつ武器を持ってみるのもよいのかなと思ったりします。真面目な人が損をすることにならないように、どこか不真面目な部分を持つことも悪くないのでは、と思ったりするんです。

——それでも、自分の強みが何かがわからず、戸惑ってしまう人は多いと思います。

【天真】どこを見渡しても美男子しかいない舞台で、あえて私は“イケメンの箸休め”的存在を目指したのです(笑)。また、そのロールモデルがいなかったことも、逆によかったのかもしれません。わが道を行くことで自分自身が楽だったし、何よりストイックになれたのだと思います。

構成=本庄真穂

天真 みちる(てんま・みちる)
脚本家・舞台人

2006年宝塚歌劇団に入団、花組配属。老老(若は皆無)男女幅広く男役を演じる。また、タンバリン芸でも注目を集める。2018年10月に同劇団を退団。現在はフリーで活動しており、舞台、朗読劇、イベントなどの企画・脚本・演出を手掛ける傍ら、自身もMCや余興芸人として出演している。オンラインサロン『天真みちるの歌(ん)劇団応援組』を開設。「観劇」を愛する方との心通うサロンを運営中。2021年3月、初の著書である『こう見えて元タカラジェンヌです』を刊行。