王道ではない、それが私の生きる道

——主役の吸血鬼に血を吸われて気が狂う不動産仲介人、裏で麻薬を密売している医者……トップスターとはかけ離れた「クセのあるおじさん」を数多く演じることになります。その道を進んでいくきっかけはどんなことだったのでしょうか。

【天真】私だって最初は、キラキラのトップスターに憧れていました。でも、自分の才能を信じ、不安を埋める努力を怠らず、芸を磨いて自己肯定感を高めていく……そういう人をスター候補だとするならば、私はすでに違うという自覚がありました。歴代スターの当たり役を、誰が再演時に演じるかで、スター街道に乗っているのかどうかは、少しずつわかるようになります。そんな環境でしのぎを削る同級生を横目に、「お呼びでないな」と早いうちに方向転換した、いやせざるをえなかったという方が正しいかもしれません。

——名バイプレイヤーを目指しながらも、メインストリームではない道を歩くことに葛藤はありませんでしたか。

今年4月に公演された「エリザベート TAKARAZUKA25周年 スペシャル・ガラ・コンサート」の楽屋写真
今年4月に公演された「エリザベート TAKARAZUKA25周年 スペシャル・ガラ・コンサート」の楽屋写真(写真提供=天真 みちるさん)

【天真】もちろん、ありました。でも誰かが努力して切り開いた道は、それをどれだけ上回ることができるのか、そのためにどう効率的に進むのか、そのアプローチが問われることになります。自由に地図を描きたくても、もう道は埋まっている状態。私はきっとそっちには進めないな、ということがわかっていたんですよね。ビジネス的に表現すると、ひとりだけブルーオーシャンに漕ぎ出した、ということになるのかもしれません。もともと、王道ではない道のほうがストイックになれる性分。青くて自由な海で泳ぐことで、本来の探究心が刺激され、うずき始めたんです。

——「おじさん役」を“ブルーオーシャン”と表現するのは、天真さんならではですね。「脇役のトップスター」を極めることで感じた、やりがいや魅力を教えてください。

【天真】おじさん役というのが未開拓すぎて、それを突き詰めるのが本当に面白かったんですよ。たとえば衣装合わせ。みんなは1センチでも脚を長く見せるべく、床ギリギリのズボン丈にこだわっている横で、私はヒールのないおじさん靴を探したり、ヒゲをどれだけつけるか、どうつけるかを試行錯誤している。おじさんといってもダンディなタイプではなくて、私が目指していたのは、猫背でどこか自信なさげな方向。みんなが目指すものを目指さなくていい、それどころか真逆に進んでいけることが、なぜだかすごく楽しかったんです。