“会社の将来性”より“柔軟な働き方”を重視する転職者たち
テレワークができる会社と社員、できない会社と社員の違いはそれだけにとどまらない。転職先選びにも影響を与えている。エン・ジャパンの「コロナ禍での企業選びの軸の変化」調査(2021年2月17日調査)によると、特に重視しているものとして「希望の働き方(テレワーク・副業など)ができるか」が最も高く42%、次いで「企業・事業に将来性があるか(38%)となっている。
また同社の「コロナ禍前後のキャリア観の変化」意識調査(2021年7月19日発表)にもその傾向がうかがえる。コロナ禍をきっかけに働き方の変化がなかった人が41%だったが、そのうち現在の働き方・雇用のされ方に「満足していない」「どちらかといえば満足していない」人の合計は71%。どのような変化を期待するかの質問で最も多かったのは「リモートワークや在宅勤務の導入」の47%。30代は62%に達している。次いで「時差出勤やフレックスタイム制の導入」の39%(30代50%)となっている。さらにこうした柔軟な働き方ができることで「転職意向度が上がる」と答えた人が66%(30代76%)もいる。
お金より働き方重視の傾向へ
テレワークなどの柔軟な働き方ができない会社は離職リスクが高いといえる。それを実感しているのが前出の大手事業通信会社の人事担当役員だ。
「当社も中途採用を実施しているが、最近感じるのは必ずしも金銭報酬の高さではなく、テレワークを含めて自分のライフスタイルに合わせた働き方ができる企業を求める傾向が強くなっていることだ。またテレワークができる企業が増えたことによって、在宅勤務中に転職志望先のオンライン面接を昼間でも受けることができ、転職しやすくなっている。実際に当社の中途入社の面接も昼間行っている。今後、テレワークなど柔軟な働き方が難しい企業は人材獲得競争力を失ってしまうのではないか」
同社は2021年入社の社員から最終面接までオールオンラインで選考。2022年度もオンラインでの採用活動を実施しているが、最大のメリットは東京など面接会場に足を運べない地方の優秀な学生を獲得できたことだという。さらに今年度は通常の採用活動とは別に地元から離れたくない優秀な学生を対象に正社員として採用し、地元のサテライトオフィスでリモート勤務を行う制度を創設。すでに内定者も出ている。
今後はテレワークができない企業の社員が、テレワークなど柔軟な働き方が可能な企業への転職することが増えていくだろう。ましてやこの1年間に通勤時間もなく、自由度の高い働き方をしてきた人たちが次の転職先にテレワークできない企業を選ぶとは考えにくい。特に子育て中の人たちにとってはテレワークを中心とするライフスタイルが浸透し、定着しているはずだ。
優秀な人材がテレワーク可能な企業に移動することになると、人材獲得競争力において優位に立つだけではなく、ビジネス上の競争力でも大きな格差が発生する可能性がある。
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。