男女不平等を肌で感じた瞬間

【白河】これほど思い切った改革を進められたのも、江川社長が女性活躍に対して強い思いをお持ちだったからだと思います。そうした思いを持つに至ったきっかけをお聞かせください。

【江川】40歳の時、ある事件があったんです。当時、私は製造流通本部の責任者だったのですが、お客様との打ち合わせに女性社員を連れて行ったら、後でその方に「うちの会社に女性担当者を連れてくるのはちょっと……」と言われたんですよ。初めて男女不平等の現実を知った瞬間でした。それまでは不平等を実感したことがなかったので、「女性は女性だというだけでお客様からも不平等をこうむっているのか」とショックを受けましたね。以来、その部分は誰かがサポートするべきだと思うようになったのです。今から15年ほど前の話です。

【白河】今はその思いを行動に移されているわけですね。以前、江川社長は「働き方改革に魔法はない」とおっしゃっていました。女性活躍に関しても、やはり魔法はないとお思いですか?

数合わせのための「無理やり昇進」は絶対避けるべき

【江川】ないですね。女性が活躍できる場や環境をどうつくるか、社長自ら考えることがいちばん重要だと思います。そこさえ見つけることができれば、やり続けていくうちに女性の活躍の場も女性比率も自然に増えていきます。女性比率は「ナチュラルに増やす」ことが大事なんですよ。当社にも女性管理職比率などの数値目標はありますが、極力不自然なことはしないよう心がけています。実力もないのに無理やり昇進させたりしたら本人がつぶれてしまう。それだけは絶対に避けなければなりません。

もちろんキャリアに対する本人の意向も大切です。女性は昇進に対して消極的だとも言われますが、最近の当社ではそこも変化しつつあります。管理職手前の女性にスポンサーを付け、不安を取り除きつつ、本人の意向と実力に合わせて適切な機会が与えられているかを見守るようにしました。女性社員が3割以上とすでにマイノリティーの状態から脱しているので、そうなるとロールモデルとなる女性リーダーも多様化してきていますから、イメージがわきやすいのでしょう。昇進への意識も男性とほぼ変わらなくなってくるようです。

やはり、この「3割」という比率が大事。そこに達するまでは会社の手助けも必要だと思います。ここでいう手助けとは数字合わせをすることではなく、環境整備や人材育成などのサポートのことです。これを継続すれば、3割を超えた頃からサポートなしでもどんどんカルチャーが変わっていきます。

ただ、当社が女性活躍に取り組み始めたのは6年前。ですから、昇進する人の男女比率は入社6年目までではほぼ半々なのですが、それ以上の世代になると女性人材自体が少ないのです。そのため、女性リーダーの育成にはまだまだ支援施策が必要と考えていますが、先ほど言った通り、数合わせのための「無理やり昇進」は絶対避けるようにしています。

【白河】それは数合わせだけを考えている経営者へのよい警鐘になりますね。マイノリティーがマイノリティーでなくなるまで、きっちり伴走していくことが大事だと。

女性管理職比率の変化