働き方改革や女性活躍において目覚ましい成果を上げているアクセンチュア。男性中心社会だったコンサルティング会社は、なぜ、どのようにしてここまで変わったのか。ジャーナリストの白河桃子さんが、改革を主導した江川昌史社長にその裏舞台を聞いた──。

事業拡大と女性比率向上は両立できる

【白河】コンサルティング会社というと、一昔前は男性社会のイメージがありましたが、その中で、アクセンチュアは女性活躍推進に取り組み、成果を出されています。取り組みの経緯を教えてください。

アクセンチュア 江川昌史社長
アクセンチュア 江川昌史社長(写真提供=アクセンチュア)

【江川】私は6年前に社長になる前から、当社の成長には女性を含むダイバーシティの実現が必須だと思っていました。同時に、今後はDX(デジタルトランスフォーメーション)などのデジタルビジネスが伸びていくだろうという確信もありました。この領域で女性が活躍する場をつくれば、事業の成長とともに自然と女性活躍の場も増えるはず。そう考えて、この2つを同時に推進していこうと決心したのです。社長就任後、デジタルビジネス領域で女性の採用強化や育成を進めるうち、同領域では約半数が女性従業員になりました。それに伴い、会社全体の女性比率も約22%から36%を超えるまで向上しています。

アクセンチュア・ジャパンの男女別社員数推移

欠かせない「デジタル人材」と「アート人材」

【白河】やはり女性活躍推進は、それを自社の強みにどう結びつけるかという点も考えながら進めるべきですね。単に比率を上げればいいと言うわけでは無い。また、脇役ではなくメインとなる業務の領域に配置していると。御社のデジタル領域の女性はどんな業務内容で活躍しているのでしょうか。

【江川】「カスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)」と呼ばれる分野においてお客様が提供する顧客体験や感覚的な価値を提供するようなコンサルティングに関わる人が多いですね。例えば化粧品会社のお客様が、女性消費者の方々に、デジタル技術を駆使して他社では味わえないような体験を提案する仕事です。いい提案をするにはターゲット層への理解が必要ですから、ここで女性のセンスが重要になってきます。

また近年は、映像や視覚的効果などを使って体験を提供したいというご要望も増えています。この時に必要なのがデザインなどの能力を持った「アート人材」。アート人材には女性も多いので、こうしたプロジェクトでは自然と女性が活躍する形になります。他にも、IoTなどの先端テクノロジーを活用した「インダストリーX」という領域でも女性が活躍していますね。お客様にとって使いやすい設計をするには、やはり従来の男性中心の画一的組織から生まれるものでは不十分で、女性的な感覚など、多様な人材が関わることでより良いものが生まれることが多いのです。

デジタル領域は、そもそも女性の能力のほうが優位に働く領域ではないかと思います。世で使われているものは、女性目線や主婦目線からできていることも多い。そうしたものを男性目線だけで設計するのはナンセンスですから。

社長自ら女子大、美大を行脚

【白河】デジタル領域というと職種ではエンジニアやプログラマーが思い浮かびますが、御社ではもっと幅広い場が用意されているのですね。女性の人材はどのようにして確保されたのでしょうか。

ジャーナリスト 白河桃子さん
ジャーナリスト 白河桃子さん(撮影=干川 修)

【江川】新卒採用にあたっては女子大や芸大、美大に行って、当社にはこんな領域があって女性やアート人材の活躍の場がたくさんあります、と一生懸命説明して回りました。当時のアクセンチュアは「男性集団」「ガツガツ働く」みたいなイメージを持たれていたので(笑)。すると翌年から女子学生が入社してくれるようになり、翌々年にはその後輩もという形で女性比率が上がっていきました。

【白河】そもそも、女子大や美大に就職先として認識されていなかったのですね。最近は「新入社員の50%を女性にします」という企業も出始めていますが、一時的に数を採用するだけではなかなか後が続きませんよね。

【江川】その通りです。私は数字を先行させるのはよくないと思っています。入社時の割合が半々だったとしても、その後の活躍の場がなければ、本人に「このままいても活躍できないかも」と迷いが生まれてしまいます。それで退職につながってしまったら、会社にとっても生産的ではありません。ですから、自分が社長としてなすべきことは、まず女性を含めた多様な人材が活躍できる環境を整えること、そして女性比率と業績を同時に伸ばしていくことだと考えていました。

これを実現するため、社長就任後にはダイバーシティ、リクルーティング、ワークスタイルの3つの変革を掲げた働き方改革「Project PRIDE」を開始しました。前の2つは先ほどご説明した通りですが、ワークスタイルではまず在宅勤務制度を全社員に拡大しました。週3日週20時間から働ける勤務制度も整え、勤務時間や場所ではなく、社員が仕事上生み出す価値を軸に評価する形にしたんです。そうした方針に切り替えたことで女性が働き続けやすい環境が整い、結果として女性比率向上につながりました。

さらにコロナ禍を経て、今では社員の大半が在宅勤務制度を活用しています。かなりフレキシブルな働き方ができるようになっていますが、「Project PRIDE」はまだまだ道半ばです。改善せねばならない点はたくさんあります。大事なことは、きちんと課題を洗い出し、手綱を緩めずに解決に向けたアクションを着実に積み重ねていくことです。

大半が在宅勤務でも2桁成長をキープ

【白河】私も御社の働き方改革をずっと取材しているので、まずは「働き方」というのがよくわかります。「Project PRIDE」では、従来のコンサルタント会社によく見られたマッチョな雰囲気やホモソーシャル(同質性の高い組織)文化、長時間労働、ハラスメントなど、女性活躍の障害になりそうな要素を徹底的に取り除こうとされていますね。そして働き方改革はコロナでさらに加速した。ただ、在宅勤務拡大などの改革をすると生産性が下がるという企業もあるようです。

【江川】アクセンチュア・ジャパンの業績は、現在も2桁成長を続けています。これはアクセンチュア全社の中でも突出しています。また、生産性も上がっているという実感があります。取り組みを始める前は二桁台だった退職率も、半減して一桁台になりました。

男女不平等を肌で感じた瞬間

【白河】これほど思い切った改革を進められたのも、江川社長が女性活躍に対して強い思いをお持ちだったからだと思います。そうした思いを持つに至ったきっかけをお聞かせください。

【江川】40歳の時、ある事件があったんです。当時、私は製造流通本部の責任者だったのですが、お客様との打ち合わせに女性社員を連れて行ったら、後でその方に「うちの会社に女性担当者を連れてくるのはちょっと……」と言われたんですよ。初めて男女不平等の現実を知った瞬間でした。それまでは不平等を実感したことがなかったので、「女性は女性だというだけでお客様からも不平等をこうむっているのか」とショックを受けましたね。以来、その部分は誰かがサポートするべきだと思うようになったのです。今から15年ほど前の話です。

【白河】今はその思いを行動に移されているわけですね。以前、江川社長は「働き方改革に魔法はない」とおっしゃっていました。女性活躍に関しても、やはり魔法はないとお思いですか?

数合わせのための「無理やり昇進」は絶対避けるべき

【江川】ないですね。女性が活躍できる場や環境をどうつくるか、社長自ら考えることがいちばん重要だと思います。そこさえ見つけることができれば、やり続けていくうちに女性の活躍の場も女性比率も自然に増えていきます。女性比率は「ナチュラルに増やす」ことが大事なんですよ。当社にも女性管理職比率などの数値目標はありますが、極力不自然なことはしないよう心がけています。実力もないのに無理やり昇進させたりしたら本人がつぶれてしまう。それだけは絶対に避けなければなりません。

もちろんキャリアに対する本人の意向も大切です。女性は昇進に対して消極的だとも言われますが、最近の当社ではそこも変化しつつあります。管理職手前の女性にスポンサーを付け、不安を取り除きつつ、本人の意向と実力に合わせて適切な機会が与えられているかを見守るようにしました。女性社員が3割以上とすでにマイノリティーの状態から脱しているので、そうなるとロールモデルとなる女性リーダーも多様化してきていますから、イメージがわきやすいのでしょう。昇進への意識も男性とほぼ変わらなくなってくるようです。

やはり、この「3割」という比率が大事。そこに達するまでは会社の手助けも必要だと思います。ここでいう手助けとは数字合わせをすることではなく、環境整備や人材育成などのサポートのことです。これを継続すれば、3割を超えた頃からサポートなしでもどんどんカルチャーが変わっていきます。

ただ、当社が女性活躍に取り組み始めたのは6年前。ですから、昇進する人の男女比率は入社6年目までではほぼ半々なのですが、それ以上の世代になると女性人材自体が少ないのです。そのため、女性リーダーの育成にはまだまだ支援施策が必要と考えていますが、先ほど言った通り、数合わせのための「無理やり昇進」は絶対避けるようにしています。

【白河】それは数合わせだけを考えている経営者へのよい警鐘になりますね。マイノリティーがマイノリティーでなくなるまで、きっちり伴走していくことが大事だと。

女性管理職比率の変化

女性人材の豊富さがビジネスの強みになっている

【白河】女性社員が全体の3割以上という状況は、ビジネスの成長にも好影響を与えていますか?

【江川】他社に比べて女性人材やアート人材が圧倒的に豊富なので、それがお客様からお声がけいただく要因にもなっています。加えて、最近は売り上げなどのファイナンス指標だけでなく、CO2削減や女性比率といったESG(Environment、Social、Governance)の部分を気にされる企業も多い。当社では、そうした「非ファイナンシャル指標」のサポートも始めています。例えば、DXと同時に女性比率向上もお手伝いする、女性社員をDX人材に育てるトレーニングを提供するといったことですね。それを女性比率50%のチームで行っています。

つまり、ファイナンシャル指標、非ファイナンシャル指標の両方、全方位で価値を提供していこうということで、私たちはこの取り組みを「360°バリュー」と呼んでいます。こうしたビジネスはここ一年でかなり増えていますね。一部の機関投資家が、ジェンダー不平等の企業には投資しないと明言したこともあって、多くの企業でESGの重要性が増しています。特に外資系企業は、そこをしっかりやっておかないとすぐ株価が下がってしまいますから。

女性活躍推進には「順番」がある

【白河】コンサル会社へのESG支援の需要が高まっていると。そうすると、御社の成長にとっても顧客企業の成長にとっても、女性活躍はますます重要になりますね。それを実現するには、順番としてはまず働き方改革、それから女性活躍という順でしょうか。

【江川】その通りです。男女平等に働ける環境がなかったら、女性活躍なんてまず無理でしょう。昔の当社のように、男性優位でひたすら体力勝負、左脳勝負でやっていたら、せっかく女性が入ってきてもすぐ辞めてしまいますよ。当社にはそうした時代でも活躍している女性はいましたが、やはり息苦しさを感じながら頑張ってくれていたのではと思います。それが今では伸び伸びと、楽しそうに働いてくれる女性が増えて、非常にうれしく思っています。

“目に余る”経営者たち

【白河】最後に、日本における女性活躍への取り組みをどう見ていらっしゃいますか?

【江川】以前、ある経営者が「今、うちは働き方改革をやっているから業績がよくないんです」と言っていて、非常に憤りを感じたことがあります。数字を落とさずに改革する方法を考えるのが社長の仕事だろうと言いたいですね。

同じように、女性比率を上げることを単に人数的な帳尻を合わせることだと考えている経営者もいます。そうではなくて、自社のビジネスを拡大したら自然と女性比率が上がるという仕組みを作ることが社長の仕事であると思います。

主要ポジションに女性をつけなければ意味がない

【江川】数字合わせだけをやると、社内の男女比率は半々でも主要なポジションについているのは男性ばかりということになりかねません。それではまったく意味がない。当社では男女比率の問題はほぼ解決済みで、今はもう「中核ポジションの女性比率をどれだけ高められるか」がテーマになっています。何のためにやるのかといえば、われわれのビジネスを成長させるためです。これからのビジネスは、中心に女性がいなかったら成長は見込めない。意思決定の場に女性が何%いるか、リーダー陣の多様性が重要だと思っています。

【白河】女性が活躍できる場をつくり、働き方改革で環境を整え、そして主要なポジションに自然と女性が上がってくる。これがまっとうな順番ということですね。江川社長は自ら本気で行動し、大きな成果を出されました。こうした前例は今後、他社にとって非常に重要な指標になると思います。