有能な女性人材を紹介していく
【キャシー】私が以前勤めていたゴールドマン・サックス証券は、2020年のダボス会議で「女性など多様な取締役メンバーがいない企業のIPO(新規株式公開)は引き受けない」と宣言しました。世の中にはそうした風が吹いていますし、私たちも女性リーダーがいる企業や女性起業家は積極的に支援したい。この点も、他のファンドでは提供していない価値の一つかもしれません。
【村上】多様性は重要ですね。ただ、問題は日本にまだ女性のリーダーや起業家が少ないこと。そうした企業に投資したくても現実的には少なくて、これからもっと育てていく必要があります。その点、私たちはたまたま女性なので、女性同士のネットワークを生かして、スタートアップ企業に人材を紹介できるんですよ。男性しかいないスタートアップって腐るほどあって(笑)、そうしたところからは「多様性を高めたいから女性を採用したい」という相談がたくさん来ています。有能な女性人材を紹介、または育成することで将来的に私たちが投資できる企業も増えるだろうと思っています。
大企業でずっとマイノリティーとして働き続けてきた
【白河】若い起業家が集まるシリコンバレーでは、ピッチプレゼンで一位をとったのに女性だからという理由で投資されないことも珍しくないとか。セクハラに遭ったりする例もあるそうです。そうした風潮を、まず日本からなくしていきたいですね。資金の出し手側もほとんど男性なので、女性がこの規模で資金を出す側に回る意味はとても大きいと思っています。
【村上】私自身ずっと大企業に勤めてきて、その中で女性というだけで苦労したこともあったし、苦い経験もたくさんしました。でも、今はその経験がプラスになっていると感じています。当社の設立メンバーは全員女性ですが、女性限定のファンドにしたかったわけではなく、求める力を持っていた人がたまたま女性だっただけ。それでも、私たちが男性ならここまで注目されなかったかもしれませんから、女性という点も強みにしていけたらと思います。多様性のないところにイノベーションは生まれません。今後も、男女問わず若い起業家を支援するとともに、女性リーダーも積極的に育てていきます。
【キャシー】私たちは、大企業では常にマイノリティーの存在でした。それが今、大きなアドバンテージになっていると実感しています。女性起業家にもぜひアクセスしていただきたいですね。私たちのファンドでは、女性だという理由でハードルが高くなる心配はありませんが、ESGなど他の面では厳しいですよ(笑)。今はまだ小さなファンドですが、ここから日本のシステムを大きく変えていきたい。私たちと一緒に社会を変えていきましょう。
構成=辻村洋子
ゴールドマン・サックス証券会社、元日本副会長およびチーフ日本株ストラテジスト。1999年に提唱した「ウーマノミクス」の概念はその後広く世界に浸透し、日本政府も女性活躍推進を経済成長戦略として打ち上げるに至った。多様性、コーポレートガバナンスと持続可能性を経済合理性の観点から分析し、多くの企業や投資家に影響を与えている。2020年に『女性社員の育て方、教えます』を出版。ハーバード大学、ジョンズホプキンズ大学院卒。
OECD(経済協力開発機構)東京センター元所長。内閣府、経産省、外務省など多くの審議会で委員を歴任。2016年に上梓した『武器としての人口減社会』はアマゾン経済書部門にてベストセラーとなる。OECD以前は、主にニューヨークおよびロンドンのゴールドマン・サックス証券会社のマネージメント・ディレクターとして約20年間勤務。上智大学、スタンフォード大学院、ハーバード大学院卒。
1961年生まれ。「働き方改革実現会議」など政府の政策策定に参画。婚活、妊活の提唱者。著書に『働かないおじさんが御社をダメにする』(PHP研究所)など多数。