数十人の「見えないライバル」を想像する

もうひとつ注意してほしいポイントは、「応募先の企業と自分は1対1ではない」ということ。その企業には、自分だけでなく数十人が応募しているはずです。自分は応募者の一人にすぎず、他の人と比べられる存在なのだということを、常に頭に入れておいてほしいのです。

1対1だと思っている人は、書類選考や面接で落ちると「私は応募条件に当てはまっているのになぜ?」「私のどこがダメなのかわからない!」と思ってしまいがちです。でも、そもそも選考は条件に当てはまっている人に対して行われるもの。応募者は条件に当てはまっているのが大前提で、その中で比べられ、選ばれていくのです。

選考に臨む時は、1つしかない椅子に30人が応募しているのだと思うようにしてください。応募者の中には20代もいるでしょうし、若くてスキルが高い人もいるでしょう。そうした「29人の見えないライバル」を想像できれば、PRの内容も的を射たものになっていくはずです。

例えば、「私は他の候補者より年齢が高いかもしれませんが、その分こんなスキルがあります」と言う手もあります。こうした言葉は、採用側の目線を理解していることが伝わりますし、その目線に合わせた自分の優位性のPRにもなります。

採用側は、目の前の応募者がライバルの存在を想定しているかどうか、少し話せばすぐわかります。想定できている人とは同じ目線で話せるので、面接の内容も自然と濃くなります。加えて、見えない部分を想像する力があるということで、その人に対する評価も高くなります。

応募企業と自分は「1対1」ではない

逆に、ライバルを想定せず「企業:私=1:1」と思っている人は、採用側からすれば“お子様”に見えるでしょう。応募条件に当てはまっていることだけをPRする人とは、会話が深まりにくいもの。これは転職エージェントから見ても同じです。

35歳以上での転職は、20代の時に比べたら時間がかかるでしょう。でも、転職市場のメカニズムから言えば、年齢が上がったからと言って決して「採用されない」わけではありません。正しくは「採用される量が減る」、つまり決まりづらくなるだけなのです。

決まりづらさを補うには、たくさん応募することと、年齢に応じたPR方法が重要です。転職市場での自身の現在地を見極め、その上で転職を決意したならしっかりと準備を。ライバルへの想像力を働かせながら、自分に合ったPR方法を工夫していただきたいと思います。

構成=辻村 洋子

黒田 真行(くろだ・まさゆき)
転職コンサルタント、ルーセントドアーズ代表取締役

1988年、リクルート入社。2006~13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。2014年ルーセントドアーズを設立、成長企業のための「社長の右腕」次世代リーダー採用支援サービスを開始。35歳からの転職支援サービス「Career Release 40」、ミドル・シニア世代のためのキャリア相談特化型サービス「CanWill」を運営している。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』『35歳からの後悔しない転職ノート』『採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ』など。