中堅ソフトウエアメーカーのサービス企画部に勤務しています。以前は大手メーカーのシステム子会社で働いており、28歳で現在の会社に転職しました。最近、担当していたサービスの撤退が決まり、人員削減もあるようなので2度目の転職を考え始めています。
ただ、今の年齢は37歳で、転職先が前回ほどスムーズに決まらないのではと不安を感じています。転職は35歳を超えると途端に難しくなるという話も聞きますが、実際はどうなのでしょうか。20代での転職と違う点や、注意すべきポイントなどを教えてください。(37歳・ソフトウエアメーカー勤務)
合否に影響する3つの要素
28歳での転職と37歳での転職はどう違うのか。この点にお答えする前に、まずは35歳以上の転職市場がどんな構造になっているのか、そこからお話ししたいと思います。
転職には、大きく分けて次の3つの要素が影響します。1つ目は年齢による転職難易度で、1回目の段差は、35歳前後の地点にあります。具体的には誕生日を迎えて36歳になった瞬間から対象となる求人件数が半分になり、41歳でその半分、46歳ではさらにその半分と、5歳ごとに半減していくと言われています。
2つ目は景気の循環サイクルです。転職希望者の数自体はそれほど景気に左右されませんが、求人数や採用数は好景気時には増加し、不景気になると減少します。好景気と不景気は循環的に繰り返す性質があります。もし転職するなら一般的には好景気の時期のほうが有利ということになります。
3つ目は職種ごとの需給状況。求められるスキルを持った人の数が需要より少なければ売り手市場になりますし、逆に多ければ買い手市場ということになります。現在、売り手市場になっている職種はITやDX(デジタルトランスフォーメーション)系、薬剤師、建設関連の技術者など。これらのスキルを持った人は引く手あまたで、求職者側が優位に企業を選別することができるというパワーバランスになっています。
逆に買い手市場になっているのは一般事務や受付、営業、販売など。これらは需要も多いのですが、供給もまた多い職種です。市場の原理で、候補者がたくさんいると売り手市場にはなりづらく、選ぶ権利は採用側に行ってしまうのです。
年齢が上がるほどPRが重要
ここからわかるように、転職活動で相対的に立場が強くなるのは「需要>供給」になっている職種の人であり、希少なスキルや時期的に需要が高まっているスキルを持っている人。こうした人は年齢や景気の影響も受けにくいのですが、逆にそうでない場合は、この2つの影響をもろに受けてしまいます。
不利な点が年齢だけ、あるいは景気だけならいいのですが、両方が重なるとかなりハードルが高くなってきます。その意味では、転職先がいちばん決まりづらいのは「需要<供給」の職種で、年齢を重ねた人が不況期に転職しようとしているケースだと言えるでしょう。
ですから、転職を考えた時は、まず上記3つの要素における「自分の現在地」を確認してほしいと思います。年齢の段差ではどこにいるか、景気はサイクルのどの地点か、職種の需給バランスはどうか。転職活動を始めるのは、これらを見極めてからでも遅くはありません。
「付帯条件」は何かを考える
この前提のもとで、今回のご相談内容について考えてみましょう。37歳で現時点での状況は不景気ですが、IT業界での経験をお持ちです。転職先は20代の時よりは決まりづらいでしょうが、同じ業界・同じ職種なら需給状況はそれほど悪くないように思えます。
では、年齢の点で不利だとしたら、転職活動で注意すべきポイントは何でしょうか。今は求人広告を見ても、その企業が求める年齢は書かれていません。しかし、これは年齢表現が禁止されているから書かないだけで、企業が胸の内で決めている上限年齢は必ずあると考えたほうがいいでしょう。
ただ、すべての企業が「絶対に35歳以下」などと明確に決めているわけではなく、「35歳以下が望ましいが条件によっては40歳でもいい」という場合も多いのです。例えば、「当社が求めるレベルのマネジメント力があれば多少年齢が高くてもOK」といったことですね。年齢が高くても、その企業が求める付帯条件を満たしていれば、採用される可能性は大いにあるのです。
大事なのは、この「付帯条件」が何かということ。これは求人広告には書かれていないので、文面や企業サイトなどを読み込んで仮説を立ててみるしかありません。仮説を立てた上で「私はこういうことで貴社に貢献できます」とPRすることが大事になってきます。職務経歴書や面接では、ぜひこうしたPRを工夫してみてください。
数十人の「見えないライバル」を想像する
もうひとつ注意してほしいポイントは、「応募先の企業と自分は1対1ではない」ということ。その企業には、自分だけでなく数十人が応募しているはずです。自分は応募者の一人にすぎず、他の人と比べられる存在なのだということを、常に頭に入れておいてほしいのです。
1対1だと思っている人は、書類選考や面接で落ちると「私は応募条件に当てはまっているのになぜ?」「私のどこがダメなのかわからない!」と思ってしまいがちです。でも、そもそも選考は条件に当てはまっている人に対して行われるもの。応募者は条件に当てはまっているのが大前提で、その中で比べられ、選ばれていくのです。
選考に臨む時は、1つしかない椅子に30人が応募しているのだと思うようにしてください。応募者の中には20代もいるでしょうし、若くてスキルが高い人もいるでしょう。そうした「29人の見えないライバル」を想像できれば、PRの内容も的を射たものになっていくはずです。
例えば、「私は他の候補者より年齢が高いかもしれませんが、その分こんなスキルがあります」と言う手もあります。こうした言葉は、採用側の目線を理解していることが伝わりますし、その目線に合わせた自分の優位性のPRにもなります。
採用側は、目の前の応募者がライバルの存在を想定しているかどうか、少し話せばすぐわかります。想定できている人とは同じ目線で話せるので、面接の内容も自然と濃くなります。加えて、見えない部分を想像する力があるということで、その人に対する評価も高くなります。
応募企業と自分は「1対1」ではない
逆に、ライバルを想定せず「企業:私=1:1」と思っている人は、採用側からすれば“お子様”に見えるでしょう。応募条件に当てはまっていることだけをPRする人とは、会話が深まりにくいもの。これは転職エージェントから見ても同じです。
35歳以上での転職は、20代の時に比べたら時間がかかるでしょう。でも、転職市場のメカニズムから言えば、年齢が上がったからと言って決して「採用されない」わけではありません。正しくは「採用される量が減る」、つまり決まりづらくなるだけなのです。
決まりづらさを補うには、たくさん応募することと、年齢に応じたPR方法が重要です。転職市場での自身の現在地を見極め、その上で転職を決意したならしっかりと準備を。ライバルへの想像力を働かせながら、自分に合ったPR方法を工夫していただきたいと思います。