「店舗MVPを取って一緒に見返そう」
ついに佐藤さんは、入社20日目にして「やめたい」と辞意を伝えた。
「すると、渡辺雅司専務(現在の社長)が夕礼の場で『新卒をいじめるとはどういう会社だ。いじめたと認識している人は出てきてください』と厳しく叱責し、『こんなことが起きないように会社を良くしていきたい』と言ってくださった。それで、踏みとどまりました。確かに当時の会社には奥ゆかしい感じの女性が多く、私が目立っていたのは確か。郷に従わず『出る杭』になっていたんですね」
さすがに本店配属だけは嫌だった佐藤さん。就職活動中に全店舗を回った中で、ぜひ働いてみたいと思っていた、都心のターミナル駅の百貨店食料品売り場を希望してそこに配属された。
売り場に出勤すると、店長から、本部では「佐藤さんがまったくあいさつをしない」などという悪い噂が立っていると聞かされた。
「でも店長は、『私はあなたが言うことを信じるよ』と。そして『一緒に見返そう。店舗MVPを取って新年会で表彰されるように頑張ろう』と背中を押してくれました」
とはいえ、学生時代はバスケットボールに打ち込み、ほとんどアルバイトもしたことがなかった佐藤さんにとって、接客の仕事は初めて。最初は戸惑うことも多かったが、挨拶を心掛け、お客さんの顔を覚え、季節の商品を試食しては感想をノートに記すなど努力を欠かさなかった。店長とパート1人の3人体制だったが、信頼関係を構築できたこともあり、1年後には社内で売り上げトップとなり店舗MVPを獲得。自身も新人賞に選ばれた。
「私は負けず嫌いなので、最初は『絶対見返してやる』という気持ちだったんです。でも、店長に信じてもらい、支えてもらいながら店頭に立つうち、『仕返し』ではなく、お客様のために頑張ろうという気持ちに変わったんです。それが自分の成長につながり、会社のためにもなるんじゃないかと」
徹底的に歩いて競合店を調査
活躍が評価され、2004年10月には、翌年2月に開店予定のカフェを併設した新店舗「こよみ」のオープニングスタッフに抜擢された。しかし、フードコーディネーター、デザイナーなど、飲食店立ち上げのプロたちが集まる中、佐藤さんは「みなさんが何を話しているのかもわからない。『なんで私ここにいるんだろう?』という状態でした」という。
「自分にできることは何か」と考えた結果、「店舗がある東京・広尾の街に詳しくなろう」と思い立った。
当時、埼玉県在住だった彼女は土地勘がゼロ。そこで、街を徹底的に歩いて競合となる店を調べ上げるところから始めた。
「多くの店を客として訪ね歩き、メニューや品ぞろえ、スタッフの制服デザイン、内装、客層などを研究しました。当時はまだスマホもありませんし、店内で写真を撮るのは不自然。休日には実家の母と一緒にカフェに行き、母に『ゆっくり食べて』と頼んでその間に手書きでメニューをメモしたりしました」
この研究のおかげで、開店準備チームの中でも自信を持ってアイデアを出せるようになった。
「専門家がいると、ついひるんでしまうし、頼ることを考えてしまう。でも、自分ができることは何かを考えて実行すること、そして専門家をただ『頼る』のではなく『力を借りる』ことが重要だと学びました」