「年下は苦手」興味が持てなかった新卒採用

新店舗の立ち上げを見届け、2005年10月には本部に戻ることになった。

多くの企業では、販売の現場から本社への異動は「栄転」とみなされるが、当時の船橋屋の空気は全く逆で、「販売の現場が花形」。1年で本部に異動となった佐藤さんに対して、まわりは「何かやらかしたの?」と不審がったという。

当初は仕入れ受注管理を担当していた佐藤さんだが、当時社内でも貴重な「パソコンができる」人材ということで、ネット通販立ち上げを担当することになった。

「くず餅は日持ちがしないので、そもそも『通販で注文できる』ということが認知されていなかったんです。それが、テレビの情報番組で取り上げられたこともあって知られるようになったのが大きかった。立ち上げ当初は1日1~3件くらいの注文しかなかったのが、70件以上の注文が入るようになりました」

同じ頃、世の中の新卒採用活動もネットへの移行が進んでいた。応募も電話からネットに変わりつつあったため、ネット通販で実績を上げていた佐藤さんに、また白羽の矢が立った。

「でも、実は最初は、新卒採用に全然興味が持てなかったんですよ」

末っ子で、親戚の中でも一番年下だった佐藤さん。年上の人と接するのは得意だが、年下と接した経験があまりなかった。

「どうアプローチしたらいいのか、全然イメージが沸かず興味も持てず、正直『イヤだな』と思っていました」

「採用」ではなく「若年層向けの広報」

しかし、担当したからには何とかしなくてはならない。「興味を持てないのは、知らないからだ」と考えた佐藤さんは、他社の採用担当者や採用コンサルタントの話を聞くなどして勉強。それでも、「いい人材を採ろう」というアプローチが、どうしてもしっくりこない。考え抜いて「付加価値の付け方を変えよう」と思い至った。

2008年、新卒採用を担当していたころの佐藤さん(右)。1つ下の後輩(左)と。写真提供=船橋屋
2008年、新卒採用を担当していたころの佐藤さん(右)。1つ下の後輩(左)と。写真提供=船橋屋

「『採用』と考えるから自分の中で違和感が生まれてしまう。そうではなく、若年層向けの広報と捉えることにしました。当時の船橋屋のお客様は50代以上の方が中心だったので、それ以下の若い人に、私が大好きなくず餅について、船橋屋について、知ってもらうきっかけにしようと意識を変えたんです」

そして、お金をかけずにできることとして、採用情報サイトでブログを書き始めた。

2011年1月、新年会で年間MVPを受賞した佐藤さん(右)。左は渡辺社長。写真提供=船橋屋
2011年1月、新年会で年間MVPを受賞した佐藤さん(右)。左は渡辺社長。写真提供=船橋屋

「ここではネット通販での経験が生きました。データを分析すると、採用情報サイトへのアクセス数と応募者数は比例していた。どうやってアクセス数を伸ばすかを考えた時、ブログでくず餅や船橋屋について発信しようと思ったんです。実際、学生さんからも『ブログ見てます』『ブログで興味を持ちました』『もっとお話が聞きたいです』と言われることが増えました」

もくろみ通り、アクセス数の増加とともに応募者数も増加。2008年は250人の応募だったのが、3年後の2011年には20倍の5000人を突破した。そして2015年には1万7000人もの学生が応募するほどの人気企業に成長した。