公表情報だけでは明らかにできない女性の状況

分析には、総務省統計局が毎月実施している労働力調査の個票を用いた。公表されている労働力調査の結果は、男女別、年齢別といった観点から集計されているが、そうした公表結果からはわからないことも多い。たとえば、子どもの有無に注目した集計は行われていないし、単純な集計を超えて、高度な統計学的手法を用いた上での解析なども行われていない。

内閣府「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」に参加していた筆者は、公表情報だけでは女性がおかれている状況を正確に把握することはできず、したがって有効な対策も打てなくなることを懸念していた。そこで、研究会事務局を通じて総務省統計局より労働力調査の個票利用承認を受け、池田将人研究員(東京大学)、川口大司教授(東京大学)、深井大洋研究員(内閣府)と共に、独自の集計、解析を行った。

コロナ禍で失われた雇用と労働力

分析は、就業率などの労働市場指標に対する「コロナ禍の効果」を推定するところから始めた。「コロナ禍の効果」とは、コロナ禍のせいで失われてしまった雇用や労働力を指す。たとえば、「コロナ禍がなかった場合の就業率」と「コロナ禍のもとでの就業率」の差を、就業率に対するコロナ禍の効果とみなす。

もちろん、現実にはコロナ禍が存在したわけであるから、「コロナ禍がなかった場合の就業率」は統計学的に推定しなければならない。具体的には、コロナ禍が起こる前5年間の就業率の推移を基に、2020年における「コロナ禍がなかった場合の就業率」を推定した。これは、コロナ禍のせいで失われた人命を推定する「超過死亡率」の考え方に似ている。推定の際には、女性就業率が上昇傾向にあったことや、子どもを持つ女性の就業率が夏期に低下するといった既知のパターンが考慮されている。

有配偶子あり女性(25〜54歳)の就業率
※データ提供=山口慎太郎さん
有配偶子あり男性(25〜54歳)の就業率
※データ提供=山口慎太郎さん