学校を閉めることの副作用は大きい
筆者らの分析は、コロナ禍のために女性、特に子どもを持つ女性の就業率が大幅に低下したことを明らかにした。これは、学校を閉めることの副作用が大きいことを意味する。休校してしまうと、何より子どもたち自身の学ぶ機会が失われてしまう。加えて、本稿で述べてきたように、子育て女性の就業が大幅に低下してしまうのだ。しかも、その効果は学校を再開したからといって、ただちに元に戻るようなものではない。
今後の感染拡大状況によっては、休校やむなしという論調も出てくるだろう。そうした判断を完全に排除すべきとは言わないが、政治家は休校を決断する前に、子どもと女性に対して大きな副作用があることをはっきりと認識しなければならない。
極端な性別役割分業の解消を
働く母親たちが再び労働力に戻るには、まだまだ時間がかかりそうだ。政府が最優先すべきは、ワクチン配布を進めてコロナ禍を収束させることだ。そうすれば労働需要も回復するし、子どもに対するケアの必要性も下がる。
そのうえで、長期的には男女共同参画を進め、現状の極端な性別役割分業を解消させるべきだろう。男性が家事を担えるように、男性の育休取得推進や家事・育児のための時短勤務といった働き方改革が不可欠だ。男性の家事・育児参加を進めることが、女性の労働市場進出にもつながってくる。
(注記)分析結果は内閣府「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」の第9、11回で報告されており、資料は同研究会ホームページで公開されている。
・研究会ホームページ
・ 第9回での資料
・ 第11回での資料
内閣府・男女共同参画会議議員、朝日新聞論壇委員なども務める。1999年慶應義塾大学商学部卒業。2001年同大学大学院商学研究科修士課程修了。2006年アメリカ・ウィスコンシン大学経済学博士(Ph.D.)取得。カナダ・マクマスター大学助教授、准教授、東京大学准教授を経て2019年より現職。専門は労働市場を分析する「労働経済学」と結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」。『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)で第41回サントリー学芸賞を受賞したほか、ダイヤモンド社 ベスト経済書2019 第1位に選出。近著に『子育て支援の経済学』(日本評論社)。自身のホームページやツイッター(@sy_mc)でも、多数の情報発信を行っている。