台風の影響で400万円飛ぶ

【萩原】僕もまさに、台風19号がきて畑が壊滅的な被害を受けたときに本を書くことを思いついたんですよ。10月のことで、1日に500ミリくらいの雨が降って400万円くらい飛んだんです。で、冬に売るものがなくなっちゃったから「本とか書いちゃおうかな」と思った(笑)。

起きちゃったことは変えられないけれど、その価値をあとから塗り替えることはできると思ったんです。農場のメンバーと、「これをきっかけに本を出せたら、『あの台風が来て、時間ができたから本が書けたね』って言ってやろうぜ」って言ってたんですよ。

【長尾】「畑がダメになった。それはちょうどいい。本でも書くか」って。

【萩原】そうなんです。

起きた出来事を無条件に受け入れるしかない仕事

【長尾】畑仕事って、起きている出来事を無条件に肯定するしかないですよね。「なんで、そんなに雨降るんだよ!」って空に向かって怒る人はいないですからね。困ったことでも無条件に受け入れるしかないっていうのが、農家の強さかなと思います。

【萩原】僕が農業を始めて2年目、7月の終わりにひょうが降ったんですよ。すごく大きな雹で、畑がボロボロになったのを見て「このあとどうすりゃいいんだろう」と思ったんですけど、他の農家さんはすぐ種を蒔くんですよね。すぐに「次行こう」って。「すげえな、これが農業なんだな」って思いました。

【長尾】やり直すということですよね、何回でも。

【萩原】そう。やられちゃったことを勘定なんてしてる時間はないんだ、ということです。

構成=やつづかえり

萩原 紀行(はぎわら・のりゆき)
のらくら農場 代表

1971年、千葉県松戸市生まれ。大学卒業後、東洋エクステリア(現LIXIL)に営業職として勤務。サラリーマンを辞め、埼玉県小川町の霜里農場で11カ月、住み込み研修を受ける。1998年、長野県八千穂村(現・佐久穂町)で就農し、夫婦2人で75aから小さく農場をはじめる。現在は約7.5haで約50品目の作物を有機栽培。2019年、「オーガニック・エコフェスタ」で開催される栄養価コンテスト(一般社団法人日本有機農業普及協会主催)では3部門で最優秀賞を獲得し、総合グランプリを受賞。2020年はケール部門で二連覇。農業界のイノベーターとして、消費者・商業者から注目と共感を集めている。妻と二男一女。

長尾 彰(ながお・あきら)
ナガオ考務店代表取締役

日本福祉大学卒業後、東京学芸大学にて野外教育学を研究後、冒険教育研修会社、玩具メーカー、人事コンサルティング会社を経て独立。一般社団法人プロジェクト結コンソーシアム理事長、学校法人茂来学園大日向小学校の理事を兼任。著書に『宇宙兄弟「完璧なリーダー」は、もういらない。』『宇宙兄弟 今いる仲間でうまくいく チームの話』(学研プラス)がある。