楽にウケる方法は、感情をそのままに伝えること

このように、A先生は自分のことを語っただけなのに、3人は思い描いていたA先生のイメージと違うので、勝手におもしろがっているのです。

実はこれこそが、本書で伝えたいことなのです。つまり、「誰だって、他人の感情の動きを100%推測することはできない。だから、自分の感情をそのまま相手に伝えれば、内容にかかわらず、意外性のある何かが生まれ、おもしろがって聞いてもらえる」ということなのです。

もちろん、確かに、自分の感情をそのまま伝えたからといっても、「あ、そうなんだね〜」と普通に返されてしまうこともあるでしょう。しかし、そうであったとしても、それは「数」をこなしていけば、いつかは聞き手にとって「え? それは予想外だった!」という驚きが発生する話題に行き着きます。

もっとシンプルに言えば、「自分の感情を相手にそのまま伝える。それを何回か繰り返していれば、必ず相手にとって意外なポイントが見つかり、そこから話が盛り上がる」ということになります。狙っておもしろい話をするというより、確率論なのです。

ですので、話の内容そのものがおもしろいかどうかは、あまり関係ありません。自分と相手の間に、この「ズレたカツラ理論」が成立するかどうかがすべてなのです。そのために一番有効なのが、「自分の感情をそのまま相手に伝えること」なのです。本当に、それ以上でも、それ以下でもないのです。

「地味な人」ほど効果的

私がこのメソッドをおすすめする理由は、次の2点です。

1.自分の感情をそのまま述べることは、フリ・ボケ・ツッコミのような技法と違ってシンプルで、普通の人でも、今、この瞬間からできることだから
2.普段あまり自分のイメージを知られてないような地味な人こそ、このメソッドが有利に働くから

1で触れた、フリ・ボケ・ツッコミを駆使し、「狙って笑いを取る技法」というのは、相当な高等テクニックです。だからこそ、変な方向に行ってスベってしまいがちという、リスクもはらんでいます。

2に関しては、自分のことを常にオープンにしているような人だと、好きな食べ物を伝えたぐらいでは、「そうだろうな」と、笑うほどでもない普通の会話になってしまうこともあると思います。

しかし、そうした前提となるイメージが薄く、普段、どんな感情で生きているのか他人からは分かりにくい地味な人だと、少しでも感情を語りさえすれば、「どんな話をしてもおもしろい」となる確率が非常に高いというわけです。

少し遠回りしましたが、これがこの本で一番伝えたいことです。それは、「おもしろい人と思われたければ、自分の内面の感情を話せ!」ということです。そうすれば、うまくいけば今回のA先生の例のように、ただ思ったことを語るだけで、「何を話してもおもしろい」状態に持っていけます。その上、ただ感情を語るだけなので、狙って冗談で笑いを取ろうとして失敗したときのように、スベることもなくなります。

渡辺 龍太(わたなべ・りゅうた)
放送作家、即興力養成講座講師

幼少期から口数が極端に少ない性格だったが、アメリカ留学時に受けたインプロ(即興力)がきっかけとなり、以降日本人向けの即興力研究に注力。帰国後、NHKのディレクターに就任。番組出演者への即興力アップの指導も開始。現在は大手芸能事務所「浅井企画」のプロ芸人向けのアドリブ講座や公開講座でインプロ講師としても活躍中。