幼少期から極端に口数が少なかったという放送作家の渡辺龍太さん。アメリカ留学でインプロ(即興力)を学んだことがきっかけで大きく変わり、今ではプロ芸人向けのアドリブ講座で講師を務めるほどに。そんな渡辺さんが「地味な人ほど効果が期待できる」と話す、おもしろい話をするコツとは――。

※本稿は、渡辺龍太『おもしろい話「すぐできる」コツ』(PHP)の一部を再編集したものです。

階段を下りながら打ち解けた感じで会話する男女
写真=iStock.com/PamelaJoeMcFarlane
※写真はイメージです

笑いはどんなときに起きるか

笑いとは、どのようなときに発生するのでしょうか。私はよくカツラがズレた70歳の社長の事例で説明します。カツラがズレるという異常事態が起きているにも関わらず通常通り真面目に話続けている社長です。この人の場合は、偶然のアクシデントで笑いが発生しています。

つまり笑いとは、どうであれ「異常なことが、あたかも普通に行われる」という現象さえ起こればいいだけです。もちろん、カツラがズレるというような、恥ずかしいアクシデントの場合もあります。しかし、単純に自分の趣味を語ったら、それがなぜかウケたというようなこともあるはずです。

「自分のことを語ったらなぜかウケた」にヒントがある

実は、その「自分について語った時になぜかウケた」という現象こそ、一般の人が「おもしろい話」をする上で一番重要な部分です。とはいえ、多くの人は会話の中で、自分が意図していないにもかかわらず笑いが発生すると、笑われているような気がして不安になります。人によっては、「え、私、なんかおかしい⁉」と、恥ずかしいアクシデントが起きてしまったような感覚になってしまうかもしれません。

しかし、安心してください!

ある「たった1つのこと」を理解するだけで、「自分について語った時になぜかウケる」という感覚が、再現性のあることとして感じられるはずです。

他人は「勝手なイメージ」を抱いているもの

多くの人は、仕事だけで接するような人については、案外、相手がどんな考えを持っているのか、どんな人物なのかを知りません。しかし、見た目や話し方の雰囲気、学歴、年齢だとか、そういった表面的な情報は知っています。

そして、それらの情報を根拠に、多くの人は「勝手に」かなり詳細な人物像を頭の中で作り上げてしまいます。例えば、地元の内科クリニック院長のA先生について、こんな表面的な情報だけ知っているということもあるはずです。

・50 代で、いつもメガネ。やや明るい色に白髪染めをしている
・話し方は真面目で、雑談はしない
・父も祖父も医者で、地元のクリニックを受け継いだ
・一人娘が高校生の時からロンドンに留学
・愛車は真っ白な高級なポルシェで、高そうな時計を着けている

多くの人は、これらの極めて表面的な情報から、勝手にこの人の性格や思考のパターンなどを予想します。この時の予想は人によって、本当にバラバラです。過剰に悪意を持っている人がいたり、その逆で、異常なほど尊敬するような人がいたりと、ほんとうに様々な人がいるはずです。

首をかしげる若い女性
写真=iStock.com/itakayuki
※写真はイメージです

寡黙で真面目、愛想が悪い、お金持ち…

まずは、あなた(40代・男性)はA先生の診察をうけたことがあります。そして、あなたは近所の人に、「A先生って、どんな人?」と聞かれたら、こんな感じに答える人物だとしましょう。

「A先生は、寡黙で真面目な先生。ただ、俺たちみたいな普通のサラリーマンにはいないような、明るい色の白髪染めをしてるし、プライベートはもっと派手なのかもしれないね。でも、サクサク診察をこなしてくれるから、いい先生だと思うよ」

しかし、あなたの奥さん(妻)は、A先生をこんな人物と思っているとします。

「A先生は、ちょっと愛想が悪い感じ。診察もパパッとやって、すぐに次の人を呼びたいのかなって感じで、あんまり好きじゃないな。しかも、病院の前にとても高そうな車を見せつけるように停めちゃって……」

次に、あなたの子ども(息子)は、A先生のクリニックにかかったことがありますが、こんな風にA先生の人物像を捉えていました。

「A先生ってやっぱり、お金持ちだよね! A先生の家に生まれたかったよ。俺と同い年の女の子がいるけど、高校からロンドンに留学してるらしいじゃん。お医者様って、やっぱり一般庶民とは、全然生活が違うよね〜」

みんな勝手ですね(笑)! こうやって多くの人は、勝手気ままに、よく知らない人のことでもどんな人か決めつけた上で接しています。

何の変哲もない会話でなぜ笑いが起きたのか

こんな3人がとある休日、高級スーパーのKINOKUNIYAから大きな袋を抱えて出てくるA先生と遭遇しました。以下はその時の会話です。

渡辺龍太『おもしろい話「すぐできる」コツ』(PHP)
渡辺龍太『おもしろい話「すぐできる」コツ』(PHP)

【あなた】ん、あれは……? あ、A先生ですか?

【A先生】いやぁ、こんにちは! 皆さんお揃いで。外出ですか?

【あなた】そうなんですよ。連休なので田舎のおばあちゃんの家に行こうかと。

【A先生】奇遇ですね! 今日、私もロンドンにいる娘のところに行くんです。離れて暮らしている家族に会いに行くのは大切ですよね。

【妻】そうですよね! 先生のようなパパが来てくれたら娘さんも喜ぶでしょうね。その手提げ袋にカップラーメンを買い込んでますけど、日本食のお土産。

【A先生】見つかっちゃいましたか! 実はこれ、私が食べるために買ったんです。私、どんな日も毎日、お昼は必ずカップラーメンを食べないとダメな体質で、これなしだと、たった数日でも海外には行けないんですよ! 恥ずかしいんですけど(笑)

【一同】(思わず笑ってしまう)

【息子】意外ですね。先生って、食にもこだわりがあるグルメな人なのかと、勝手に思ってました!

【あなた】私も、そう思ってました。高級レストランが似合うイメージ!

【A先生】そんなことないですよ! ボクは、カップラーメンが好きで、これ一筋なんですよ。あ、そうだ! せっかくだから、みなさんにとっておきの情報を紹介しましょう。

【あなた】はい。何でしょう?

【A先生】カップラーメンは、実はちょっとアレンジするだけで、もっと美味しくなるんですよ。特にオススメなのが、柚子胡椒と刻み海苔を加えるバージョン。ぜひ、試してください! もう最高なんです!

【妻】先生、こだわりますね〜(笑)

【息子】でも、その組み合わせは美味しそう! 僕もやってみようかな〜。

【一同】(またもや、笑ってしまう)

事前のイメージと実際の会話の「絶妙なズレ」がポイント

先生と、この会話をした後、3人は、「A先生って結構、おもしろい人だったんだね」と、お昼を食べながら会話をしたことでしょう。

そうなる理由は、3人それぞれが思い描いていたA先生の人物像と、今回A先生が話した内容が、絶妙にズレていたからです。つまり、「異常なことが、あたかも普通のように行われている」状態になっていたのです。

重要なのは、あなたがおもしろいと思うかどうかではなく、聞き手がどう思うかです。といっても、理解できない人も多いと思うので、なぜ3人が「A先生っておもしろい人だな!」と感じたのか、詳しく解説していきたいと思います。

それぞれにイメージとの「ギャップ」があった

まずあなた(夫)は、A先生を寡黙で真面目な先生と認識していました。にもかかわらず、A先生は気さくに、自分自身のことについて話し始めました。この時点で、すでに「ズレたカツラ理論」が成立しています。

ですから、あなたはA先生がどんな内容の話をしたとしても、「この人、思ったよりも感情豊かに自分のことをしゃべるんだな」と思うはずなので、A先生のことをおもしろいと思うのです。

一方、妻はA先生のことを「愛想の悪い人」として、快く思っていなかったはずです。しかし今回出会ったA先生は、とても愛想がよく、自分が好きなカップラーメンの話を一生懸命にするような人でした。それは妻からすると、相当な異常行動に見えるので、何を話してもおもしろいのです。

これはまさしく、明らかにズレたカツラをかぶっているのに、あたかも普通に振る舞っている社長と同じ状態です。話の内容の良し悪しを越えて、A先生の話がおもしろいと感じてしまうのです。

最後に息子は、A先生のことを「ただのお金持ち」だと思っていました。だから、勝手な想像で、A先生は食にもうるさく、贅沢三昧だと思っていたのですが、実際にはA先生が大好きなのはカップラーメンで、しかもそれに対する愛情を、惜しみなく語り始めました。これは、息子にとっては、シャイで寡黙な友人が、急に裸踊りでも始めたかのような衝撃です。だから、A先生の話がおもしろいと感じたのです。

楽にウケる方法は、感情をそのままに伝えること

このように、A先生は自分のことを語っただけなのに、3人は思い描いていたA先生のイメージと違うので、勝手におもしろがっているのです。

実はこれこそが、本書で伝えたいことなのです。つまり、「誰だって、他人の感情の動きを100%推測することはできない。だから、自分の感情をそのまま相手に伝えれば、内容にかかわらず、意外性のある何かが生まれ、おもしろがって聞いてもらえる」ということなのです。

もちろん、確かに、自分の感情をそのまま伝えたからといっても、「あ、そうなんだね〜」と普通に返されてしまうこともあるでしょう。しかし、そうであったとしても、それは「数」をこなしていけば、いつかは聞き手にとって「え? それは予想外だった!」という驚きが発生する話題に行き着きます。

もっとシンプルに言えば、「自分の感情を相手にそのまま伝える。それを何回か繰り返していれば、必ず相手にとって意外なポイントが見つかり、そこから話が盛り上がる」ということになります。狙っておもしろい話をするというより、確率論なのです。

ですので、話の内容そのものがおもしろいかどうかは、あまり関係ありません。自分と相手の間に、この「ズレたカツラ理論」が成立するかどうかがすべてなのです。そのために一番有効なのが、「自分の感情をそのまま相手に伝えること」なのです。本当に、それ以上でも、それ以下でもないのです。

「地味な人」ほど効果的

私がこのメソッドをおすすめする理由は、次の2点です。

1.自分の感情をそのまま述べることは、フリ・ボケ・ツッコミのような技法と違ってシンプルで、普通の人でも、今、この瞬間からできることだから
2.普段あまり自分のイメージを知られてないような地味な人こそ、このメソッドが有利に働くから

1で触れた、フリ・ボケ・ツッコミを駆使し、「狙って笑いを取る技法」というのは、相当な高等テクニックです。だからこそ、変な方向に行ってスベってしまいがちという、リスクもはらんでいます。

2に関しては、自分のことを常にオープンにしているような人だと、好きな食べ物を伝えたぐらいでは、「そうだろうな」と、笑うほどでもない普通の会話になってしまうこともあると思います。

しかし、そうした前提となるイメージが薄く、普段、どんな感情で生きているのか他人からは分かりにくい地味な人だと、少しでも感情を語りさえすれば、「どんな話をしてもおもしろい」となる確率が非常に高いというわけです。

少し遠回りしましたが、これがこの本で一番伝えたいことです。それは、「おもしろい人と思われたければ、自分の内面の感情を話せ!」ということです。そうすれば、うまくいけば今回のA先生の例のように、ただ思ったことを語るだけで、「何を話してもおもしろい」状態に持っていけます。その上、ただ感情を語るだけなので、狙って冗談で笑いを取ろうとして失敗したときのように、スベることもなくなります。