口腔環境は、気づかないうちに悪化する
では、口腔環境は、なぜ悪化するのだろうか。
歯学博士の若林健史先生によると、そもそも良好な口腔環境とは、清潔で歯周病などの炎症が起きておらず、本来の機能を発揮できる状態を指す。
「口腔内の環境が悪化する主な原因として、喫煙や乾燥、糖質の過剰摂取、ストレス、家族間の菌の感染が挙げられます。歯肉(歯茎)に出血があるほか、『歯周ポケット』と呼ばれる歯と歯茎の間の溝の深さが4mm以上ある場合に歯周病と判断されますが、45歳以上の過半数が自覚のないまま口腔環境が悪化し、歯周病になっている恐れがあります」(図表3)。
さらに、最近はコロナ禍によるマスクの着用で口呼吸になり、口腔内が乾燥する人が増えている。その結果、唾液が出にくくなって自浄作用や免疫力が低下して菌が増えやすくなり、歯垢などの温床になるという。加えて、コロナ禍によって歯科の受診を控えている人も多く、口腔環境を良好な状態にキープできないケースも多いようだ。
バクテリアセラピーで、口腔環境を改善
このように、知らず知らずのうちに悪化する口腔環境を整えるには、「プロケア」「セルフケア」「バクテリアセラピー」の三種が必要となる(図表4)。
「なかでも『バクテリアセラピー』は、ここ数年、予防医療として注目されています。バクテリアセラピーとは、ノーベル生理学・医学賞選定機関であるノルウェー・カロリンスカ医科大学で30年以上研究されている新しい概念で、優れた生菌の善玉菌(プロバイオティクス)を摂取することで体内常在菌のバランスを整え、健康を維持するもの。善玉菌を用いるため薬剤耐性が起こらないうえ、ヒト由来の善玉菌を用いるため体に定着しやすく、子どもから高齢者、妊娠中の女性まで安心して摂取できます」(若林先生)
バクテリアセラピーに使用されるプロバイオティクスには、「安全性が十分に保証されていること」「もともと腸内フローラの一員であること」「胃液や胆汁に耐えて腸内に到達できること」などWHOが定めた7つの条件があるが、そのすべてをクリアしているのが「ロイテリ菌」だ。
「ロイテリ菌とは、もともと人の体内に生息し、母乳を通じて受け継がれてきた乳酸菌です。世界100以上の国と地域で使用され、200以上の臨床研究がありますが、副作用の報告は1件もありません」(若林先生)
また、ロイテリ菌は、体内で「ロイテリン」という天然の抗菌物質を生成し、虫歯や歯周病菌などの増殖を抑制する効果が期待できるうえ、善玉菌の増加・活性を促進。口腔で働くだけでなく、生きたまま消化管に届いて働くため、バクテリアセラピーに欠かせないものといえる。ロイテリ菌を含むヨーグルトやサプリメントも市販されているので、口腔ケアに上手に活用したい。
この冬は「プロケア」「セルフケア」「バクテリアセラピー」の三種の神器で口腔環境を整え、しっかりと感染症に備えよう。