口の中の善玉菌と悪玉菌のバランスが口内環境を決める
歯周病とは、歯周病菌に感染することで起こる歯肉(歯ぐき)や歯槽骨(歯を支えている骨)など歯の周りの病気で、成人の約8割がかかっているといわれる。気づかずに放置すると病状が進行し、やがて歯を支える骨が溶け、歯を失うこともある。しかし、初期のうちは痛みもなく歯肉が腫れる程度なので、軽視しがちではないだろうか。
ところが近年、歯周病は口の中だけの病気だけにとどまらず、全身の疾患に関わっていることがわかってきた。アルツハイマー型認知症や脳梗塞、心筋梗塞、誤嚥性(ごえんせい)肺炎、糖尿病、早産・低体重出産、関節リウマチなどの全身疾病に、歯周病菌が関与しているというのだ。
私たちの口腔内にはおよそ300~700種類の細菌が存在し、人それぞれのバランスで住み着いている。細菌は「常在菌(善玉菌)・日和見菌・悪玉菌」に分類され、バランスは常に一定ではなく、日々勢力争いを繰り広げている。
理想的なバランスは「善玉菌2:日和見菌7:悪玉菌1」。ところが、歯磨きが不十分だったり、唾液が少なくなったりすると、悪玉菌や日和見菌が暴走して、むし歯や歯周病のリスクが高まってしまう。
歯周病菌が歯肉から血管に侵入して全身で悪さをする
むし歯菌とともに口腔内の“二大悪玉菌”と呼ばれる歯周病菌。歯周病菌は空気を苦手とするため、食べかすをエサに、歯垢(プラーク)の中で増殖するのが特徴。歯周病菌の出す毒素が歯肉に炎症を起こし、やがて骨を溶かしてしまうのが歯周病だ。
ところが、歯周病菌は口腔内だけではなく、血管や気道にも侵入して、全身に影響を及ぼすことがわかってきた。
「歯周病菌が肺に入ると誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが、妊娠中の女性では陣痛や子宮の収縮が促されることで早産や低体重児出産のリスクが高まります。さらに、多くの人において、歯周病菌が血管に入り込むことで全身の血管で動脈硬化を引き起こし、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まります」(日本歯周病学会理事、歯学博士の若林健史先生)
なかでも近年研究が進んでいるのが、歯周病とアルツハイマーとの関係。最新の論文では、アルツハイマー病患者54人の脳の96%から、歯周病菌の原因菌が見つかった。アメリカではアルツハイマーの治療に歯周病菌抑制剤を投与する臨床も始まっている。