「for me」意識の高すぎるZ世代
私は、この彼らの「一見見えにくい過剰な自意識」を「ミー意識」と名付けました。
もちろん、昔から若者は自意識過剰であり、自分のことだけしか考えられないわがままな生き物だったと思います。しかし、長らく若者研究をしてきた私の実感で言うと、「ゆとり世代」が若かった頃まではまだ辛うじて、年功序列や縦社会的な感覚、組織に尽くす「for all」の感覚が残っていたように思いますが、Z世代の間でそれは大きく減り、代わりに「for me」の感覚が非常に強くなってきているように感じます。
ただし、これは必ずしも欧米のような個人主義化が進んだというわけではなく、あくまで同調志向の中で自意識を高めるという、昭和世代が理解するのには難しい感覚です。
「ミー意識」の強いZ世代は、周りから「いいね」という承認をもらって生きてきたせいか、また、多くの大人の寵愛を受けて育ってきたせいか、「プチ万能感」を持っていることも特徴です。ただし、この万能感も一見見えにくいので、「プチ」としておきます。
「プチ万能感」を持つZ世代の脆さ
「Z世代白書2020」によると、「上に立つリーダーになりたいと思う」(Z世代30.3%、25歳以上17.1%)、「今の自分の社会的地位を維持しさらに高めることに力を注ぎたい」(Z世代38.0%、25歳以上26.5%)、「近い将来、実現可能な目標(夢)がある」(Z世代58.1%、25歳以上41.8%)などの項目で、Z世代の数値は上の世代より高く、彼らの「プチ万能感」を示していると言えます。
なお、プチ万能感を持つZ世代は、繊細さと脆さも同時に持っていることにご注意下さい。
同白書でも「日常生活にストレスを感じている」(Z世代60.6%)、「日常生活に満足していない」(Z世代58.5%)、「孤独を感じることがある」(Z世代56.1%)などの項目でZ世代の数値は上の世代より高く、彼らは「プチ万能感」と「脆さ」を併せ持っています。
数年前にアメリカのコロンビア大学に行った時に、学生課の方が「今のアメリカの若者は自信満々なところとものすごく脆いところが特徴です」と言っていました。ひょっとすると、世界中のZ世代の間で、この「ミー意識」からくる「プチ万能感」と「脆さ」が共通の特徴となっているのかもしれません。
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。