話が通じない人のトリセツ
このようなタイプとかかわっていると、「話せばわかってもらえる」と思うのは甘いということに気づく。そこで大切なのは、ある意味で諦めることである。つまり、いくらていねいに説明しても、通じない相手もいるのだということを肝に銘じておくことである。「ちゃんといっておいたから大丈夫」などと思っていると痛い目にあう。ゆえに、何度も確認することが必要だ。
「分数がわからない大学生」「割り算ができない大学生」「%がわからない大学生」……などといわれるようになり、大学で中学・高校の復習をする時代になった。実際、1万2000円の30%引きが8400円になるということを、いくら説明してもわからなかったりする。
そのような学生もふつうに卒業し、社会人として働くことになる。%がわからない人物に増益率の話をしても通じないだろうし、割引率をめぐる交渉の話をしてもわかるわけがない。日常のやりとりも、それと同じく、この種の相手にとってはわけのわからない話になっているのだ。学校で日本語でおこなわれている授業が、まるで外国語のようにわからない生徒が増えているといわれるが、社会に出ても似たようなことが起こっている。こっちが当然、通じると思っている言葉も理屈も、むこうにとっては、まるで初めて耳にする外国語のようにまったく理解不能で、わけがわからないのである。
宇宙人相手だと思って対応を柔軟に
結局のところ、生きている世界が違うのだ。ゆえに、頭のなかにある言葉がまったく異なるのだと心得ておく必要がある。別世界を生きているのだと思うことで、イライラもちょっとは軽減するはずだ。通じるはずだと期待するからイライラする。通じないものと思っていれば、淡々とかかわっていける。
どうしてもやってもらわなければならないことがあるときは、ふつうの相手の場合のように理屈で説明しようとしないことが大切だ。なにをどうするかを具体的に伝える。実際にやってみせる。ハウツーを意識して伝える。最近のマニュアル化の進展や、ビジネス書のマニュアル化・ハウツー化の傾向を見ると、このタイプが増えてきているのは間違いない。
1955年東京生まれ。東京大学教育学部教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授などを経て、現在、MP人間科学研究所代表、産業能率大学兼任講師。おもな著書に『〈ほんとうの自分〉のつくり方』(講談社現代新書)、『「やりたい仕事」病』(日経プレミアシリーズ)、『「おもてなし」という残酷社会』『自己実現という罠』『教育現場は困ってる』『思考停止という病理』(以上、平凡社新書)など著書多数。