一日のスケジュールを少しだけ変えてみよう

枡野俊明『人生は凸凹だからおもしろい 逆境を乗り越えるための「禅」の作法』(光文社新書)
枡野俊明『人生は凸凹だからおもしろい 逆境を乗り越えるための「禅」の作法』(光文社新書)

ふだんの生活のなかでもわび、さびに触れる時間をもつ。現代人にはとても大切なことではないでしょうか。人の一日のスケジュールはだいたい決まっているものです。夕方までは仕事がその中心になりますし、仕事が終わってからも同じようなことをして過ごしているという人が多いのだと思います。

晩酌をしながら夕食をとり、テレビを観たり、音楽を聴いたりしたあと、就寝するといったものが、いわば「お定まり」のパターンになっている。

その定型を崩しませんか。ときにはベランダでも庭でもいいですから、戸外に出てひとときを過ごすのです。月をただボーッと眺めるというのでもいいのです。できれば、満月ではなく、雲がかかっている月、欠けている月がおすすめです。

日々の暮らしにこそ、わび、さびを

村田珠光は次のような文言を残しています。

「月も雲間のなきは嫌にて候」

月も満月はつまらない。やはり、雲の間に見え隠れする月にかぎる、といった意味でしょう。珠光は千利休のわび茶の流れをつくった人です。見え隠れする月にわび、さびの美しさがある、と考えていたことは疑いを入れません。

雲間に光る月、満月から徐々に欠けていく月を眺めることは、まさしく、わび、さびの美に触れることなのです。もちろん、それはお定まりの日常を変化させますし、日々に新たな味わいを添えてくれることにもなるでしょう。

秋には虫の声も聞こえるでしょう。美しい音を響かせてくれていた鈴虫が思わぬところで鳴くのをやめる。そこで、「なんだ、もっと聞いていたかったのに……」とは思わないでください。こちらの思いとはかかわりなく、聞こえたり、聞こえなくなったりする、その不確実さにわび、さびの風趣があるのです。

風が花びらや紅葉の葉を散らすのも、雪がわずかずつ降り積んでいくのも、わび、さびの美しさといっていいでしょう。四季を通してわび、さびを味わうことはできます。ぜひ、定型を捨て、外に出ましょう。

写真=iStock.com

枡野 俊明(ますの・しゅんみょう)
曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー

1953年、神奈川県生まれ。多摩美術大学環境デザイン学科教授。玉川大学農学部卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行ない、国内外から高い評価を得る。芸術選奨文部大臣新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受章。また、2006年『ニューズウィーク』誌日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。