共働き妻の謎多き言動

そういえば3回目の受講中、気になる記述があった。性別に関する無意識バイアスは、男性だけではない。実は女性の中にも強く存在していて、女性が会議での発言を遠慮したり、「自信がない」「管理職にはなりたくない」と言いがちなのは、その影響も強くあるのだという。

女性の、女性に関する無意識バイアス、身近で心当たりがあった。常々ギモンに思っていたことである。戦前派の両親の下、昭和な家庭で育った筆者が家事全般を行う頻度は、おそらく世間的な基準値に達していない。そこは認める。休日はだいたいひと言、ふた言かみさん(一時専業主婦だったが現在はフルタイムの共働き)にチクリと言われるのが常である。しかし不思議なことに、じゃあ何かやろうと動き出すと、「いや、いい」と拒否するのである、かみさんが。

え、やってほしかったんじゃないの? と戸惑うこと数知れず。じゃあお言葉に甘えて……とグータラしていると、当たり前だが文句はまず絶えることがない。じゃあ、と一念発起しようとすると、やはり「やんなくていいよ」と出鼻をくじかれるのだ。どうせえっちゅーねん。

結婚歴20年以上、長年の謎が氷解!

ここでハタと思い当たったのが、「家は妻の城である」という至言。過去の取材で腹落ちしながら、しばし忘れていた貴重なフレーズ……この“城”こそ、「女性は家庭」の無意識バイアスが強力に効いた、家事遂行にプライドをかけたかみさんの昭和な心根そのもの……。そう仮説を立てるとすべてが氷解した、気がした。今まで筆者は、“敵の城”に無防備に踏み込もうとしていたのかもしれない。

筆者は勇気を出して、遠回しにヒアリングしてみた。

【Q】なんで家事やっちゃダメなの?
【A】「やってやる」とか、「男女平等、半々じゃなきゃいけない」とかだったら、やってほしくない。でしょ? そもそもあなたが(以下略)

やってやる、などと上から申し上げるつもりなど決してなかったのですが……。ただ、イモヅル式に続いたそのお小言から、高い“城壁”の存在は確認できた。

夫婦の未来を思って家事に手を出すなら高い城壁の存在を知り、その正体をつかみ、そのうえで本当は何を望んでいるのかを聴き取る姿勢が必要だ。相応の時間は必要と思われるが、さすれば「女性は家庭」という無意識バイアスとかみさんの筆者に対する評価を、数ミリくらいは動かしてくれるかもしれない。

男女ともにアンコンシャス・バイアスの根深さをまずは知ること、ここからすべては始まるのだと思った。

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西川 修一(にしかわ・しゅういち)
ライター・編集者

1966年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒業。生命保険会社勤務、週刊誌・業界紙記者、プレジデント編集部を経てフリーに。