“色出しのプロ”の技を知ってほしい

幸枝さんがオーダーメイドタイルブランドを設立したきっかけは、まちづくり活動を通して知り合った建築家から「オーダーメイドタイルをつくれないか」と相談されたことだ。釉薬職人は、何万通りもの質感やカラーバリエーションをつくり出せる“色出し”のプロ。その高い技術をもっと生かしたい、世に伝えたいと思っていた幸枝さんにとって、オーダーメイドタイルはまさにぴったりのアイデアだったという。

玉川釉薬の釉薬で彩られたTILEmadeのタイル
玉川釉薬の釉薬で彩られたTILEmadeのタイル(写真提供=玉川釉薬)

今、タイルメイドの通販サイトでは、オリジナルカラーのタイルを購入できるほか、要望に合わせて一点一点手づくりしてもらうこともできる。夕日のような赤、旅先で見たカフェのターコイズブルー、サンゴの海のような青──。玉川釉薬がそんなオーダーに応えられるのも、幸枝さんがユーザーと釉薬工場をダイレクトに結ぶ仕組みをつくり上げたからこそだ。

釉薬職人である姉の尋子さんは「釉薬づくりはタイルメーカーの下請けで陰の仕事。そんな職業があること自体あまり知られていなかった」と語る。

「釉薬職人って、どんなに努力していても、はたから見たら暑い中で毎日泥を混ぜているだけ(笑)。自分なりにキレイな色を出せたなと思っても、エンドユーザーの声を聞けることもなくて……。喜びを感じる機会が少なかったんですが、妹のおかげで変わりました」

幸枝さんも「職人さんにお客様の声を伝えたり、実際にタイルを貼った現場を見せたりするとすごく喜んでくれる」とうれしそうだ。これまで、釉薬職人は陰で努力することを美徳とし、仕事を世間に見せることなく黙々とものづくりに励んできた。そんなかつての職人像が、今、2人の行動によって変化しつつある。

インスタに反響「職人だって発信したい」

以前は尋子さんも、自分の仕事を泥くさいだけだと思っていたそう。ところが、つくったタイルや自分が働いている姿をインスタグラムで発信し始めたところ、続々と「すごい」「キレイ」といったコメントが届いた。今ではそれを励みにしながら積極的に自分の技術を発信しているという。

タイルに釉薬の吹き付けを行う尋子さん
タイルに釉薬の吹き付けを行う尋子さん(写真提供=玉川釉薬)

しかし、釉薬づくりは伝統ある地場産業のひとつ。歴史が長いだけあって、業界の中にはイマドキすぎる2人の行動に違和感を持つ人もいたのではないだろうか。

「同じ業界の人に『あまり仕事内容を外に漏らさないほうがいい』と言われたことはあります。職人がインスタなんてチャラチャラして、と思ったのかも。でも、私たちが陰のままでいたら釉薬職人は減っていく一方。『こんなすごい仕事だよ』、『女性もいるよ』って発信していきたいんです」(尋子さん)

「タイルメイドは、『釉薬工場=タイルメーカーの下請け』っていう業界の常識を破った事業でもあるので、やっていることがよくわからないとか、非効率だとか思っている人もいるかもしれません。でも、産業を発展させていくためにはここで慣習を破らないと」(幸枝さん)

2人の慣習を破る試みは、発信活動や新規事業だけにとどまらない。職人が営業から色合わせ、タイルサンプルづくりまでを一人で担う慣習も「私たちの代で破りたい」と幸枝さん。姉が仕事に忙殺されている姿を見て、職人の働き方改革も目指すようになったという。