16年、規制緩和から規制強化策へ

翌16年になると、安倍政権はそれまでの規制緩和路線から一転し、規制強化策に乗り出す。その第一弾が1月26日の施政方針演説での「同一労働同一賃金」の実現だった。EUの労働指令のパートタイマーや有期契約労働者の待遇差別禁止をヒントに日本でも制度化し、非正規社員の待遇を改善することで経済の好循環につなげようとの狙いがあった。6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」では「欧州の制度も参考にしつつ……関連法案を国会に提出する」と明記された。

さらに同プランでは、これまで無制限に残業させることができた労働時間の規制を強化し、残業時間に上限を設ける方針を打ち出した。16年9月には電通の女性新入社員が過労自殺していたことが世間の関心を集め、幹部社員や社長の辞任にまで発展したことで、残業時間の上限規制は世間からも歓迎された。

翌17年3月、安倍氏を議長とする働き方改革実現会議が「働き方改革実行計画」をまとめ、この中に同一労働同一賃金の法制化と労働基準法改正による上限規制が盛り込まれた。ところが、その後、具体的な法律案が出されて誰もが驚いた。法律案の中に廃案になったと思っていた「高プロ制度」と「裁量労働制の適用拡大」が入っていたのである。

裁量労働制の適用拡大は法案から削除

これまで政府の働き方改革実現会議を含めた一連の会議では高プロ制度について議論されることはなかった。残業時間の上限規制という労働時間管理の規制強化の法案と一緒に労働時間の規制を緩和する高プロ制度と裁量労働制の適用拡大という一見正反対の内容が含まれていた。しかも法律は同一労働同一賃金の法案も含めた「働き方改革関連法案」という束ね法案として18年の通常国会に提出された。つまり、野党が高プロ制度に反対して法案が成立しなければ同一労働同一賃金や残業時間の上限規制も成立しなくなる。

国会審議では与野党の攻防が続いたが、18年1月29日、安倍氏が「厚労省の調査によれば裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般的労働者より低いというデータもある」と発言。しかし、後にその厚労省の調査が客観性を欠く不適切なデータであることが判明し、法案から裁量労働制の適用拡大を削除することになった。そして6月29日、「働き方改革関連法案」が国会で成立した。

ここまでが安倍政権の働き方改革の一連の流れである。

実際の法律の施行日は、高プロ制度が19年4月、残業時間の上限規制が19年4月(中小企業は20年4月)、同一労働同一賃金が20年4月(中小企業は2021年4月)である。

ではその成果はどうなっているのか。