なぜ働き方改革は“中途半端”に終わったのか

また、安倍政権の働き方改革を検証すると、アメリカ流の新自由主義的「規制緩和」とヨーロッパ流の「規制強化」が混在した政策と呼ぶことができる。その中身の中途半端さに加えて、相反する政策を束ねた一括法案(働き方改革関連法案)として提出したことで経営側と労働側、与野党の対立や世論の批判を生む騒ぎにまで発展した。主な法律と政策は以下の通りである。

アメリカ流規制緩和政策

①高度プロフェッショナル制度(時間外労働や残業代などの労働時間規制を撤廃。米国のホワイトカラー・エグゼンプションに近い)

②企画業務型裁量労働制の営業職への拡大(1日の労働時間を設定し、それ以外の労働時間については深夜・休日労働を除いて残業代支払いを免除)

ヨーロッパ流の規制強化政策

①残業時間の上限規制(これまで事実上無制限だった残業時間を年間720時間、2~6カ月平均で80時間、単月100時間未満とする)

②同一労働同一賃金制度(EUの正規と非正規の賃金格差を禁じる法律を参考に同一会社内の正規と非正規の不合理な待遇差をなくしていく)

また、これらの政策は本来、厚生労働省マターであり、労使の代表が参加する厚労省の労働政策審議会で議論するのが普通であるが、内閣官房の下に設けられた会議体で議論するという異例の官邸主導で行われたことも大きな特徴だ。

2013年からの「働き方改革」振り返り

では安倍政権の働き方改革の流れを改めて振り返ってみたい。まず就任直後の2013年。最初の成長戦略(日本再興戦略、13年6月)で「我が国最大の潜在力である『女性の力』を最大限発揮できるようにすることは少子高齢化で労働力人口の減少が懸念される中で、新たな成長分野を支えていく人材を確保していくためにも不可欠である」と述べ、女性活躍推進を掲げた。そして2020年に女性管理職比率を30%にする「2030」プランの推進、それを後押しする「女性活躍推進法」の制定など誰もが異論を挟まない政策を打ち出し、女性を含む世論は歓迎する。

しかし、翌14年の成長戦略(「日本再興戦略」改定2014)の中に①の「ホワイトカラー・エグゼンプション=WE(労働時間規制の適用除外)の導入が盛り込まれ、世の中を驚かせた。じつは04年のアメリカのWEの大幅な規則改正の実施を契機に経団連が05年に導入を提言。それを受けて第1次安倍政権下で法案作成の作業が進んでいたが、メディアや野党の「残業代ゼロ法案」の批判を浴び、07年1月に法案提出を断念した経緯があった。

当時は解雇の金銭解決制度も議論され、小泉純一郎政権から続く新自由主義的な労働規制の緩和が相次いでいたが、安倍政権もそれを継承し、その1つがWEの実現だった。

それが新たに成長戦略の労働政策の目玉として登場。年収1000万円以上の労働者を対象とする後の「高度プロフェッショナル制」(高プロ制度)につながる制度として復活した。

同時に提起されたのが②の裁量労働制の拡大だった。安倍氏にとってはまさにリベンジともいえるものだったが、労働組合をはじめ国会審議では野党から「長時間労働につながる、働かせ放題制度」と、批判を浴びた。それでも政府は法案作成を続行し、翌15年の通常国会に向けて法案を閣議決定した。ところが国民の批判を恐れた与党が国会での審議入りすることはなく、誰もが廃案になったものと思っていた。