昭和な男性管理職が変わった
この3ステップを経て、“昭和な”男性管理職が変わった事例は多いです。年齢、性別、経験といったバイアスを排し、事実ベースでの評価ができるようになってから、管理職候補の推薦シートに今まで上がったことのない人の名前が記されるようになった、という企業もありました。
そこで、どんな人が変わったか、変わらなかったか、という観点で受講者分析をしたところ、意外なことがわかってきたんです。これまで自分の成功体験を大事にしてマネジメントを行ってきた管理職は、新しい手法を拒絶するかと思いきや、実は有効に取り入れて、現場のマネジメントに生かしていく傾向があったのです。
「この人はきっと変わらないよね」という思い込み自体がバイアスだったんです。「これはマネジメント上、必須のスキル」「こういう考え方をすると成果が上がりやすい」と、きちんとメカニズムでご説明すれば、柔軟に取り入れていただけることが我々の大きな気づきでもありました。
「まずは打診すること」が大切
このほかにも、管理職が思い込みであれこれ決める前に、まず部下に「打診」することで色んな変化が起きています。ケーススタディの中でも、「部下にきいてみましたか?」「事実をベースに判断しましたか?」とお伝えしています。
すると、保険の示談交渉や災害対応などのハードな現場に女性を派遣していなかった企業で、本人に意思確認をしたら「担当したい」と言われた、という事例が出てきました。
また、正社員と嘱託社員が別々にランチに行っていたのを全員シャッフルして、色んな意見交換ができる場にしたという管理職もおられます。
コロナ禍の在宅勤務で、対象として小さなお子さんを抱えた女性しか思い描いてなかった別の管理職の方は、「待てよ」と思い直し、「どんな働き方がいいか?」という打診を、部下全員に行ってみたそうです。実際は「全員の希望が、自分の予想とはまったく違っていた」と振り返っておられました。部下の側にも遠慮があり、家庭を理由に重要な仕事に対して手を挙げられない人もいますが、今、その方は「方法は考えるから、遠慮せずにやりたいかどうか希望を言って欲しい」と伝えているそうです。
またある方は、女性社員に対して「きっと忙しいから無理だろう」と、早朝の仕事を振らないよう配慮していたんですが、自分のアンコンシャス・バイアスに気づいてフラットなコミュニケーションを取るよう意識を変えました。「早朝の仕事、できる?」と聞いてみたら「やりたいです!」などと相手の反応がものすごくポジティブになったそうです。
そのマネージャーには、早朝の仕事は女性より男性がいいという思い込みがあった。でも、実は女性のほうは、早朝の仕事はウェルカムだったんです。上司側が嫌われるのを過度に恐れてアプローチしなかっただけ。そう気付いてから、早朝業務の指名の仕方を変更したそうです。「実は、怯えていたのは自分だったんだ」と後から振り返っておられました。
このように、アンコンシャス・バイアスは、気付いて初めてその弊害の大きさと、逆にそれを取り除いたときの効果の大きさを実感できるのです。
構成=西川修一 写真=iStock.com
早稲田大学第一文学部卒業後、リクルートへ新卒入社。人材領域の営業・商品企画・パートナー渉外、営業企画の企画統括責任者。その後、個人事業主を経てチェンジウェーブへ参画。組織変革プロジェクト、ダイバーシティ推進、無意識バイアスラーニングツールプロジェクトリード、各種講演、執筆など。