制度や環境が整いつつあるのに、女性管理職がなかなか増えないのはなぜなのか。多くの企業で、その背景にある「アンコンシャス・バイアス」への注目が高まっています。アンコンシャス・バイアスに向き合うeラーニングツールや研修を提供し、組織の変革をサポートしてきたチェンジウェーブ副社長の藤原智子さんに話を聞きました。
年配のビジネスマン
※写真はイメージです(写真=iStock.com/stockstudioX)

制度は整ったのに、女性活躍が一向に進まない

産休・育休など、職場で女性に配慮した制度はひと頃より色々そろってきましたし、あからさまな男女差別は見られなくなりました。けれど、男女等しくチャレンジの機会が与えられておらず、女性の活躍がいっこうに進まない……そんなモヤモヤした状態は、今年の新型コロナ禍でいっそう強まっているように思えます。

なぜ女性管理職が増えないのか。その解決の糸口としてクローズアップされているのが、「アンコンシャス・バイアス」です。

アンコンシャス・バイアスとは、自分では気づかないものの見方・考え方の歪みのことで、いわば自分にとって「当たり前」の固定観念。誰にでもある脳の働きで、「普通は○○だ」「当然、●●すべき」といった言動に潜んでいることがあります。

例えば、「女性は○○なもの」「若いうちは▲▲しなければ」といった性別や年齢などの属性に基づくアンコンシャス・バイアスは、3~5歳の間に構築され、後からこれを完全に払しょくすることは難しいと言われています。

でも、自分にもあるのだということを認知できれば、自らコントロ-ルすることは可能です。そうすることで多くの「当たり前」を打破できれば、多様なアイデアを埋もれさせることなく、イノベーションを起こせるのではないか――アンコンシャス・バイアスがビジネスシーンで注目されるのはこのためです。

経験の差が実力差につながり、昇進差として現れる

これまで私たちは、「女性を活躍させたい」という企業様からお話をいただいて、女性の働き手に対して色々な支援を行ってきましたので、性別に関するアンコンシャス・バイアスには特段の関心を持ってきました。

アンコンシャス・バイアスは、色々な面で女性が活躍する可能性を阻んでいます。「女性はサポート的な役割が向いている」と、「女性は仕事ではなく家庭を重視すべき」の2つがその代表です。女性側にも管理職側にもこうした意識はあるもので、女性本人はそれに縛られるし、管理職の場合は女性部下への過度の配慮という形で現れます。アンコンシャス・バイアスを定量化できるIAT(Implicit Association Test)というテストで取ったデータには、それが如実に現れます。

今、コロナ禍でリモートワークの働き手が急に増えています。その中で、小さなお子さんがいる女性に対する「自宅で仕事をするのは難しいだろう」という配慮が高じて、仕事の打ち合わせにも呼ばれなくなる、ということがあります。実際にはお子さんを旦那さんが見るなど、対応できることも少なくないのですが、アンコンシャス・バイアスゆえにこういうことが起きてしまうのです。

こうした状態が続くと、実地での仕事の機会提供がなされないために、女性本人の育成が進まず、男性の同僚との経験の差がどんどん開き、ひいては実力差が事実として出てきます。こうして女性よりも同僚男性のほうが先に管理職として昇進していく一因になるわけです。

意外と強い女性管理職のバイアス

アンコンシャス・バイアスは、男性の管理職だけでなく、女性管理職にもあります。実はIATのデータで見ると、男性のジェンダーバイアスよりも、女性のジェンダーバイアスのほうがやや強いことがわかっています。

実際、弊社が提供する研修でお話を伺うと、女性管理職は女性部下に仕事を振るのを遠慮するなど、過度な配慮をしがちな一方で、独身男性に対してはもっと頑張れるはずだと考えて、大きな負担をかけてしまったりしていることがあります。

また、実際にIATを受けた女性管理職からは、「自分のバイアスが強くてビックリした」、「『女性らしく』あらねばと自分で女性らしいリーダーを演出していたことに気づいた」といった声を直接聞きました。

アンコンシャス・バイアスを軽減する3ステップ

こうしたバイアスを極小化するために、弊社のeラーニングツールや研修では、以下の3つのステップを提案しています。

1)「知る」ステップ:アンコンシャス・バイアスがいかなるものかを知る、一般的なレベルの知識を得る
2)「気づく」ステップ:自分と周囲にどんなバイアスがあるかに気づく
3)「コントロールする」ステップ:どうすれば自分の中にあるバイアスをコントロールしていけるかを学ぶ

アンコンシャス・バイアスの対処に取り組まれている企業様は皆一様に「女性本人に対するアプローチだけでは限界がある」とおっしゃいます。女性をエンカレッジしようと様々な打ち手を講じても、その周囲の上司や家族や、その他いろんな方々に対し、併せてアプローチしていかないと、女性の活躍は難しいというのです。

「女性を特別扱いしていない」と思っている人が多い

例えば1)のステップで、前述のようなアンコンシャス・バイアスについての知識を伝えても、「アンコンシャス・バイアスというものがあるのか。でも、私には関係ない」と思っている管理職が多いんです。管理職の多くは、部下が女性だからといってそんな特別扱いなんかしてない、と思い込んでいるので、なかなか行動が変わるまでには至らないと人事やダイバーシティ担当者はおっしゃいます。

そこで2)の「気づく」ステップに入ります。自分のものの見方・考え方に、「実はバイアスがあるのだ」ということを、定量的に知ることが大事です。管理職の方々は自分のバイアスがどのくらいか、知る機会がないですし、できることならバイアスはあって欲しくないと考えている方が多いようです。これを定量化して示すためのテストが前述のIATです。

ここで大事なのは、できるだけクローズドで安心・安全な環境を用意することです。「自分にはこんなバイアスがある」ということを研修などの場でオープンにするのは心理的にも抵抗がありますよね。弊社がeラーニングツールを開発し、人事担当者であっても受講者のデータから個人名が特定できないようにしているのは、そのためです。クローズドな場で自分自身と対話し、内省できるようにしています。

バイアスがあることを責めてはいけない

もっとも、バイアスは無い方が良い、自分には関係ないと思い込んでいる方々に対して、「バイアスがある」という事実だけを突きつけても、なかなか受け止めてはもらえません。責められたと感じて拒絶反応を起こす方もいらっしゃいます。

この場合、「日本の管理職の方々のデータを見てください。みんなアンコンシャス・バイアスがあります。あなただけではないんです」という趣旨のアプローチに変えることで、受け止めやすくなります。無意識バイアスは脳の機能であり、なくてはならないものでもありますが、「時にマネジメントの場面で悪影響を及ぼすことがある」ということを理解していただく必要があります。

気づきを最大化する“宿題”とは

2)のステップの中では、実地で行う宿題も出します。たとえば、「職場の会議の場で、性別や年齢、属性の違いによって発言の頻度や周囲の反応に違いがあるかどうか観察してきて下さい」といったものです。

会議中の出席者を客観的に観察してみると、普段意識していないこと、たとえば年上の人が発言していたら若手が話しづらくなっているなあ、とか、管理職が意見を求めるのは女性より男性が多いなあ、などが見えてきて、周囲の人たちにもアンコンシャス・バイアスがあることに気づくことができます。このような、客観視のアプローチを何度か行うことで、ご自身の中にもアンコンシャス・バイアスがあることに気づき、受け止めることができるようになってきます。

そしてステップ3)では、最終的に自分がどのようにしてアンコンシャス・バイアスをコントロールしていきたいかを宣言し、行動し、そして実際にはどうだったのかを振り返るプロセスがあります。

昭和な男性管理職が変わった

この3ステップを経て、“昭和な”男性管理職が変わった事例は多いです。年齢、性別、経験といったバイアスを排し、事実ベースでの評価ができるようになってから、管理職候補の推薦シートに今まで上がったことのない人の名前が記されるようになった、という企業もありました。

そこで、どんな人が変わったか、変わらなかったか、という観点で受講者分析をしたところ、意外なことがわかってきたんです。これまで自分の成功体験を大事にしてマネジメントを行ってきた管理職は、新しい手法を拒絶するかと思いきや、実は有効に取り入れて、現場のマネジメントに生かしていく傾向があったのです。

「この人はきっと変わらないよね」という思い込み自体がバイアスだったんです。「これはマネジメント上、必須のスキル」「こういう考え方をすると成果が上がりやすい」と、きちんとメカニズムでご説明すれば、柔軟に取り入れていただけることが我々の大きな気づきでもありました。

「まずは打診すること」が大切

このほかにも、管理職が思い込みであれこれ決める前に、まず部下に「打診」することで色んな変化が起きています。ケーススタディの中でも、「部下にきいてみましたか?」「事実をベースに判断しましたか?」とお伝えしています。

すると、保険の示談交渉や災害対応などのハードな現場に女性を派遣していなかった企業で、本人に意思確認をしたら「担当したい」と言われた、という事例が出てきました。

また、正社員と嘱託社員が別々にランチに行っていたのを全員シャッフルして、色んな意見交換ができる場にしたという管理職もおられます。

コロナ禍の在宅勤務で、対象として小さなお子さんを抱えた女性しか思い描いてなかった別の管理職の方は、「待てよ」と思い直し、「どんな働き方がいいか?」という打診を、部下全員に行ってみたそうです。実際は「全員の希望が、自分の予想とはまったく違っていた」と振り返っておられました。部下の側にも遠慮があり、家庭を理由に重要な仕事に対して手を挙げられない人もいますが、今、その方は「方法は考えるから、遠慮せずにやりたいかどうか希望を言って欲しい」と伝えているそうです。

またある方は、女性社員に対して「きっと忙しいから無理だろう」と、早朝の仕事を振らないよう配慮していたんですが、自分のアンコンシャス・バイアスに気づいてフラットなコミュニケーションを取るよう意識を変えました。「早朝の仕事、できる?」と聞いてみたら「やりたいです!」などと相手の反応がものすごくポジティブになったそうです。

そのマネージャーには、早朝の仕事は女性より男性がいいという思い込みがあった。でも、実は女性のほうは、早朝の仕事はウェルカムだったんです。上司側が嫌われるのを過度に恐れてアプローチしなかっただけ。そう気付いてから、早朝業務の指名の仕方を変更したそうです。「実は、怯えていたのは自分だったんだ」と後から振り返っておられました。

このように、アンコンシャス・バイアスは、気付いて初めてその弊害の大きさと、逆にそれを取り除いたときの効果の大きさを実感できるのです。