売れる秘訣はヒトと場所の組み合わせ

この種のヒト消費で重要なのは場所との関連である。秋葉原、乃木坂、名古屋市栄など、地名とアイドルを結びつけたのは、さすがの戦略なのだ。マンガ、アニメなどで、作品中に登場する土地を「聖地」として訪ねるのも同じようなことである。ヒト消費は場所消費と結びつきやすい。

考えてみれば、戦国武将の小説が好きな人がお城や城下町を訪ねるとか、池波正太郎のファンが東京下町散歩をするのも同じことだ。

昔、宇都宮にファッションビルの「109」ができたとき、地元の女子高生にインタビューをして、「109ができてよかったね」と言ったら、「だめよ。宇都宮109で買いたいんじゃなくて、渋谷109のカリスマ店員から買いたいのよ。109は渋谷にあるから109なのよ」と反論されたことがある。大事なのはヒトと場所の組み合わせなのだ。ここで買いたい、この人を推したい、という感覚である。

銀座のこの小料理屋のこの女将、渋谷のこのバーのこのダンディーなバーテンダー、下町のこのホルモン屋のこの大将、といった場所性とヒト性の組み合わせが大事になっている。

スマホでどんなに知らない街の情報でも手に入る時代なので、現代の消費者は銀座や渋谷といった大きな繁華街に行くだけでは満足しなくなっている。下町の柴又でも北千住でも巣鴨でも行くし、住宅地の中のひっそりした店にも行く。

つまり消費をするときに、どの街に行ったかという場所性もまた大きな意味を持つのである。同じようなモノ、コトでも、ネットで買ったり、新宿の駅ビルで買ったり、体験したりするよりも、あまり知られていない街の、小さな、店主が自分の好きなものだけを集めたこだわりの店で買ったほうが面白いし、チェーンのスポーツジムではない、自分なりの思想に基づくインストラクターからヨガを習う体験をしたほうが、満足感が大きいのだ。

売れる店と売れない店の決定的な違い

ところが現実には、多くの店が近年チェーン店になっている。店員はアルバイトが主体であり、客とのやりとりはマニュアル通りである。

またネットでモノを買うと、商品にクレームがあるときはコールセンターに電話をするが、コールセンターで出てくる人は、やはりマニュアル通りに答えるだけで、自分の個性はない。たまに非常にホスピタリティーの良い人が出ることがあるが、普通はロボットのようにフローチャートに従って答えるだけである。これでは、またこの店で買おうとは思わなくなる。

だが、やはりネットで買う頻度が増えていくので、コールセンターとのやりとりは増えるばかり。そういうストレスが溜まると、ますます生身の人間の面白さや機転の良さが味わえるところに行ってお金を使いたくなるのだ。

チェーンの飲食店の売り上げが低迷し、店主の個性が魅力的だったりコミュニケーション力が高かったりする個人店の居酒屋、焼き鳥屋、スナックなどに近年若い世代が引かれる理由がそこにある。

コロナ後の商店はこうしたヒト消費の側面が重要になる。店に客をたくさん詰め込んで、まさに「三密」にして薄利多売という時代は終わるだろう。