なぜいま屋台や商店街が人気なのか

先述した渋谷109のカリスマ店員だって、まさにその店員の個人の魅力、コミュニケーション力が秀でていたからこそ、あれだけ一世を風靡したのである。ユニクロがいくら売れてもカリスマ店員は生まれない。いつかはネットでだけ買うようになるだろう。

三浦展『コロナが加速する格差消費 分断される階層の真実』(朝日新書)
三浦展『コロナが加速する格差消費 分断される階層の真実』(朝日新書)

そうなるとリアルな店舗で消費をする理由は、その店にいるヒトの魅力しかなくなる。一種のタレントというか芸人というか、それくらいの魅力が店員、店主に求められる時代になるのだ。

そもそも江戸時代(おそらく明治から昭和初期でもまだ)、商人というのはしばしば芸人であって、固定した店など持たず、屋台やカゴをかつぎ、歌を歌い、踊りながら、客を集めて物を売っていたらしい。フーテンの寅さんや紙芝居はその名残である。

最近、比較的若い世代の中で屋台をつくってコーヒーを売ったり、クッキーや駄菓子を売ったりする人が増えているが、それは商売の基本に帰って、場所とヒトの魅力によって街をつくっているのだとも言えるだろう。

若い上流世代が個人店を好む傾向も

mifデータでも商店街を使う人が50~60代の男女と並んで20代の男性、特に年収が600万円以上の20代男性で多いという面白い傾向がある。週1回以上「商店街・街中の個人商店」を利用する人は男女全年齢全体では4%だが、平成男性の「中の上」では13%いる。氷河期男性でも9%であり、比較的若い世代の上流男性が商店街や個人店を好むようになっているのだ。

なぜ上流で多いのかというと、おそらく若い男性では上流と下流でコミュニケーション力に差があることが一因だろう。お店の人とうまく話しながら物を買うのが楽しめないと個人店で買う意味がないからだ。

「おばあちゃんの原宿」、巣鴨に若者たちが集まるという話も最近はよく聞く。やはり人とのつながりを楽しむ若者が増えたのかもしれない。巣鴨に限らず、昭和のレトロな街の食堂、飲み屋、喫茶店などにある人間臭さ、自然なふれあいに居心地の良さを感じるのだ(拙著『100万円で家を買い、週3日働く』参照)。

まさにコト消費であり、場所とヒトの消費なのである。こういう古い店が、もともと店主が高齢でなくなる傾向にあるのに、今度のコロナによってついに閉店ということも多かったに違いない。誠に残念である。

写真=iStock.com

三浦 展(みうら・あつし)
社会デザイン研究者/カルチャースタディーズ研究所代表

1958年生まれ。82年、パルコ入社。86年からマーケティング誌『アクロス』編集長。三菱総合研究所を経て99年、カルチャースタディーズ研究所設立。消費社会研究家として消費・都市・社会を予測、大手企業や都市・住宅政策などへの助言を行う。