「女性推し」が、ダメな男性社会人を増やす

さまざまなジェンダーバイアスを見てきましたが、ジェンダーバイアスにより、女性の意欲を低減させないようにするにはどうすればいいでしょうか。その方法についても、研究から示されています。

例えば、女性が男性に引けを取らない職務遂行能力を持つことを可視化することです。「男性と女性が同等に職務遂行能力を持つということは、研究によって証明されている」という一文の記述があるだけでジェンダーバイアスを減らせることが示されています。

また、集団の中で女性の割合が25%を下回ると無意識のジェンダーバイアスが強くなることが示されており、政府の掲げる30%の根拠はこの辺りにあるのでしょう。

さらに面白いことに、評価者が“女性を採用することを強制されている”と感じてしまうと、結果として、有能な女性よりも劣る男性の採用数を増やしてしまう、という研究成果があります。そのため、“女性推し”ではなく、“男女平等”という意識を持ってもらうことが大事なのです。

本当にキャリアを追いたくないのか

私たちは、日常的に“女子力”という言葉を使い、男子運動部における女子マネジャーという存在や、レストランやバーなどで書いてある、女性におすすめのメニューという言葉に違和感を覚える人は少ないでしょう。ジェンダーバイアスに無意識のうちに慣れていますし、ときには、ジェンダーバイアスを都合よく使っていることさえあるのでしょう。

多くの女性が今後社会で活躍していくためには、社会全体の意識が変わっていくことはもちろんですが、女性一人ひとりが改めて、なぜ社会でのキャリアを追うことに興味が持てないでいるのか、冷静に考えてみることも必要なのかもしれません。本当は挑戦してみたいことがあったかもしれないのに、何らかのバイアスによって二の足を踏んでいるとしたら、これほどもったいないことはないからです。

<参考文献>
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細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
東北大学大学院情報科学研究科 加齢医学研究所認知行動脳科学研究分野准教授

内閣府Moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業T創発的研究支援)研究代表者。脳情報を利用した、子どもの非認知能力の育成法や親子のwell-being、大人の個別最適な学習法や行動変容法などについて研究を実施。