男性に比べて、女性はキャリアに対する意欲や関心が低いことがたびたび指摘されています。その背景には、ジェンダーバイアスがあることが研究で明らかにされています。中には、女性自身も気づいていないようなバイアスも――。
アジアのビジネス女性立って、窓の外を見て都市ビューの背景
※写真はイメージです(写真=iStock.com/champc)

“無意識”のジェンダーバイアスが女性の意欲を下げる

17年前、政府は「2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする目標」を掲げました。また、2015年には、2020年までに理系女性研究者の割合を30%にすることや、大学の理系学生を、毎年度前年度以上にすることなどが目標とされました。

目標年の今、指導的地位に女性が占める割合は15%程度、研究者に占める女性の割合もまだまだ30%には届きません。そして、この目標は「2030年までのなるべく早い時期に行う“努力目標”」に格下げされました。

なぜこれらの目標達成ができなかったのでしょうか? 原因の一つに、いまだに多くの女性が、管理職というキャリアや理系進学に対して、意欲がないことが挙げられます。女性が意欲や関心を持てない背景には、「ジェンダーバイアス」があることがわかっています。ジェンダーバイアスとは、男性はたくましく、社会的にも成功するべき、とか、女性は結婚をして子どもを産むべき、などといった男女の役割について固定的な考えを持つことを指します。そしてこのジェンダーに対する固定観念が、知らず知らずのうちに、女性の意欲を喪失させ、女性が社会でリーダーになることへの大きな障害となっているのです。そしてそれは日本に限らず世界共通に起きていることで、女性の活躍が進んでいるとされる米国なども例外ではありません。そのことを示す驚くべき研究結果をいくつか紹介します。

1.業績が同じでも女性のほうが低く評価され、給与も低い

1968年、全く同じ内容のエッセイで、作者を女性の名前にした場合と、男性の名前にしたものを、無作為の人にどちらかを読んでもらい評価をしてもらうという研究が米国で行われました。結果、著者が男性の名前の方がそのエッセイの評価が高くなる、ということが示されました。1968年ならありえるかも……と思う人もいるかもしれません。

ところが、2009年になっても、職場での評価では、業績が同程度にもかかわらず、女性は男性より能力が低く評価され、給与も低く設定される、という米国の研究結果が報告されています。そしてこれは、評価をする側の人が男性であろうと女性であろうと、関係なく起こるというのです。最初の報告から30年経ってもなお、このようなジェンダーバイアスが存在しているということに加え、女性の社会進出の障害となるジェンダーバイアスは、男性だけでなく女性も同様に持っているということがわかります。

2.女性らしい服装や香水が女性の仕事への評価を下げる

TPOをわきまえた服装は重要なことです。しかし、本来、TPOをわきまえることと“女性らしさ”の度合いは関係がありません。ところが、より上位の役職の選考段階で、被評価者が、より女性らしい服装をしていると、仕事に対する評価が下がり、不利益を被ることが明らかにされています。女性らしい女性は、キリッとした男性的な女性に比べて仕事ができない、というジェンダーステレオタイプによるものだと考えられます。

また同様に、管理職選考の際、女性用の香水をつけている人より男性用の香水をつけている女性の方が、評価が高くなることも米国の研究から示されているのです。その他、工学やコンピューター・サイエンスの分野にいる女性リーダーが、高いハイヒールに華やかなワンピースを着ていると、その場にそぐわないと、男女ともから批判を受ける一方、男性の場合には仕事をうまくやって成功しさえすれば良いという見方をされるとも報告されています。

驚くべきことは、どの研究も2000年代に入ってからの研究報告であり、この考えかたは、女性からもある程度支持されていることです。事実、理系研究者として働いていると、これらの問題は身近なところで感じることがあります。

3.“母親”であることの評価が肩書によって大きく異なる

通常、履歴書に子どもの有無などは記載しません。ところが、上位職採用への評価の際、保護者会メンバー、などといった記述を含め、母親であることがわかるような記載をした履歴書は、そうでない同等の履歴書に比べ、約2倍も採用率が低くなったり、下位の職に割り振られることが、やはり米国の研究から明らかにされています。ところが、子どもを持つ女性がひとたびリーダーシップを発揮できるような職に就くと、一転、評価が一気に上がることが示されています。つまり、職に就きさえすれば成果をだせるわけですから、採用時に不利になることは根拠のないバイアスからくるものと考えられます。

4.日本の高学歴専業主婦のジェンダーバイアス

日本では、特に50代以降で高学歴の専業主婦は、就職を希望していたのに、専業主婦になった割合が高いことが知られています。人は、自分の中に起こっているこのような矛盾を解消するために、現状を合理的に考えるような意識が働くようにできています。そのため、家事や育児、働くことで生じるジェンダーバイアスについて、不公平だと思わなくなる傾向があることが日本の研究により示されています。さらに、高収入な夫を持つ女性も、そのような傾向があることが示されています。

一方、学歴が高く、家計を支えることへの貢献度が高い女性ほど、家事や育児に関するジェンダーバイアスが低いことが示されています。一部で“うちのイクメンパパ”、“家事力が高い旦那様”のさりげない自慢が横行するのには、このような背景(男性も家事や育児をするのが当然、という意識がまだまだ少ない)があるのかもしれません。女性の中にも、家事や育児に関するジェンダーバイアスが根強く残っているのです。

5.女性はリーダーシップと理系が苦手というバイアス

女性CEO、男性CEOで仕事上の成功や失敗に差がないことが示されていますし、客観的な業績評価で上位数パーセントを見たときに、男女で業務への能力差がないことも示されています。

日本では近年、医学部の合格者で、性別による人数操作が行われていたことが明るみに出ましたが、大規模な米国の研究から、女性医師が担当した患者は男性医師が担当した患者よりも統計的に臨床成績がよいことが報告されています。

その他、女性のリーダーは男性のリーダーシップとは違う形でその力を発揮することがわかっていますし、女性は◯◯が苦手(数学など)、などというものは、女性が男性に比べて能力が低い、あるいは男性脳・女性脳があるのではなく、ジェンダーステレオタイプ脅威(女性は苦手だという固定観念が、本来の能力とは関係なく、そのような結果を生み出してしまうこと)の結果であることが十分に示されています。

「女性推し」が、ダメな男性社会人を増やす

さまざまなジェンダーバイアスを見てきましたが、ジェンダーバイアスにより、女性の意欲を低減させないようにするにはどうすればいいでしょうか。その方法についても、研究から示されています。

例えば、女性が男性に引けを取らない職務遂行能力を持つことを可視化することです。「男性と女性が同等に職務遂行能力を持つということは、研究によって証明されている」という一文の記述があるだけでジェンダーバイアスを減らせることが示されています。

また、集団の中で女性の割合が25%を下回ると無意識のジェンダーバイアスが強くなることが示されており、政府の掲げる30%の根拠はこの辺りにあるのでしょう。

さらに面白いことに、評価者が“女性を採用することを強制されている”と感じてしまうと、結果として、有能な女性よりも劣る男性の採用数を増やしてしまう、という研究成果があります。そのため、“女性推し”ではなく、“男女平等”という意識を持ってもらうことが大事なのです。

本当にキャリアを追いたくないのか

私たちは、日常的に“女子力”という言葉を使い、男子運動部における女子マネジャーという存在や、レストランやバーなどで書いてある、女性におすすめのメニューという言葉に違和感を覚える人は少ないでしょう。ジェンダーバイアスに無意識のうちに慣れていますし、ときには、ジェンダーバイアスを都合よく使っていることさえあるのでしょう。

多くの女性が今後社会で活躍していくためには、社会全体の意識が変わっていくことはもちろんですが、女性一人ひとりが改めて、なぜ社会でのキャリアを追うことに興味が持てないでいるのか、冷静に考えてみることも必要なのかもしれません。本当は挑戦してみたいことがあったかもしれないのに、何らかのバイアスによって二の足を踏んでいるとしたら、これほどもったいないことはないからです。

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