日本酒に合わない食材や料理はない

Q.日本酒には、やはり和食が一番ですか?
A.むしろフレンチやイタリアンに合うんです。

トリュフ温泉卵や、スープ・ド・ポワソンなど、フレンチのスペシャリテが並ぶ「SAKE Scene〼福ますふく」のメニュー。日本酒をあまり飲まない人からは、「なぜ、フレンチにお酒? ワインじゃなくて?」とのつぶやきが聞こえてきそうだが――。

「トリュフ、フォアグラ、キャビア。オリーブオイルベースの料理から、クリーム系の味付け、味の構成が複雑なフレンチのソースまで、日本酒に合わない食材や料理は、まずありません。チーズや生ハムのような発酵系食品は、むしろ日本酒のほうが、はまり役。1度体験したら、やみつき必至です(笑)」

ペアリング成功の秘訣ひけつは、濃淡のバランスをそろえること。店では、伝統的な和の発酵食品である酒かすやみそもアレンジに加え、重すぎないコクや口当たりを工夫。エゾ鹿などのジビエも、「熟成酒かすをのばしたソースを使うことで、恍惚こうこつの一皿に変身する」そう。肉好きの方々への接待で、ぜひお試しを!

Q.温度によって、味わいが変わりますか?
A.香りが開き、甘味、酸味がふくらみます。

よく冷やして、常温で、温めて。温度帯によって変わる味の幅広さは、日本酒ならではの楽しみ。でも、家飲みでかんをつけたり、そのたびに器を変えたりは面倒なもの。その点、「お店なら、温度帯別の飲み比べも簡単に楽しめます。特に、お燗は手間をかける意味合いから、本来おもてなしにかなった飲み方。ぜひ、外飲みで味の広がりを実体験していただきたいですね」と簗塲さん。

燗をつけると、閉じていた旨味が開いてふんわり、ふくよかに。カラダにもやさしい飲み方です!

一般に、冷やして飲むのに向くのは、超高精米の繊細な大吟醸クラスや、フルーティーな香りのお酒、発泡感のあるスパークリング系。香りよりも米の旨味、酸の厚みが勝るお酒なら、冷たい状態よりも常温で、さらに温めることで旨味が開く。先に紹介した生酛・山廃も、燗で膨らみを増し、真価を発揮するタイプ。

「コースでは、軽めのアミューズには冷たいお酒を、メインには燗を、というふうにメリハリをつけてお出ししています。料理との相性も温度によってガラッと変わるので、その変化も一緒に楽しんでください」

Q.コースのとき、順番はどうすればいいですか?
A.ライト→ミディアム→フルボディ→変態系(!)で。

日本酒は個体差のある飲み物。吟醸酒に香り系と旨味系が、生酛・山廃にもモダン系とクラシック系があるように、肩書だけでは見分けられない特徴もいろいろ。仕込み水や使用酵母、麹の造り方、熟成のさせ方で、同じ品種や精米歩合でも、まるで違う個性のお酒になってしまう。

日本酒

「ワインと同じように、ボディにも細身から、ふっくら型、骨格の太いマッチョ型のバリエーションがあるし、酸のインパクトもいろいろ。コース料理に合わせるときは、その辺の強弱をそろえながら、料理と調和する流れを工夫します」

よくいわれるタイプ分けは、北日本のお酒は全般に軽快ですっきり、西日本は濃醇系が主流というもの。大筋で間違いないものの、地域性の枠に収まらない超個性派も。

「酸がキューッと高いのや、たくあんや漬物風味の、いわゆる“変態系”(笑)。『え、これ日本酒!?』と引いてしまう方と、やみつきになる方と、好みが分かれるところ。個人的には好きな味。でも、びっくりさせないよう、コース中盤以降におすすめするようにしています」

SAKE Scene 〼福(ますふく)
☎03-6450-1559 東京都港区芝大門2-11-20
営/18:00~22:30(L.O.) 休/日曜 祝日
交/都営三田線「芝公園駅」から徒歩3分ほか
簗塲 友何里(やなば・ゆかり)
SAKE Scene 〼福 国際唎酒師
「日本酒を世界へ」をビジョンに、2016年に現店オープン。流ちょうな英語で女将として接客に務める一方、小さな蔵の海外展開を応援するべく輸出業も手掛ける。

文=堀越典子

石出 和香子

堀越 典子(ほりこし・のりこ)
日本酒ライター

フリーライター。『dancyu』をはじめ、雑誌やWEBメディアで"食と酒"まわりの記事を執筆。特に日本酒を巡る風土、食文化、人に魅せられ、酒蔵訪問ルポやペアリング提案、商品紹介記事を数多く手掛ける。海外のSAKE事情にもあかるく、欧米やアジア、南米など、海外の日本酒蔵を取材で歴訪。現地でのワークショップ開催、SNSによる日本酒の情報発信にも注力する。