日中は尖閣で「ジャブ」を続けている

大前提として、制空権や制海権がなければ、地上戦力は成り立たないに等しい。このことは、第2次世界大戦の頃にははっきりと軍事戦略として認識されており、歴史を見れば明らかなことだ。

なにしろ、制海権がなければ、船舶を使って大型の物品や大量の物資を運び込むことはできないし、制空権がなければ、その船舶を空からの攻撃から守ることも、島嶼とうしょに展開させている地上兵力を守ることもできないからだ。特に、絶海の孤島である尖閣魚釣島のような地理的条件の場合は、これが顕著だ。

中国沿岸警備隊船舶パトロール:釣魚島沖の領海
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現状で報道されていることが事実であるなら、魚釣島周辺海域でいま行われていることは、警察力であるコーストガード同士によるせめぎ合い、つまりは海軍兵力を使用しない範疇での制海権のつばぜり合いだ。ボクシングでいえばジャブのようなものに、私には見える。

この段階では、海自特殊部隊の出番はないほうがいい。海保の「こら!」という声掛けに対して、中国側が「すみませんでした」と帰ってくれるならそれがいちばんだからだ。

ただし、ジャブだから有事に発展しないということでは決してない。ジャブを侮っていると痛い目にあうことは往々にしてある。ジャブのあとには、ストレート、フックと、衝撃力を増した連続攻撃が来るからこそ、ボクサーは備えるのである。そして、尖閣でいえば、その連続攻撃の内容は、海軍力を駆使する戦闘にまで発展しかねないのだ。

海自特殊部隊は有事になったら尖閣を守れるのか

「尖閣」有事となった場合、海自特殊部隊は、尖閣魚釣島でなにができるのか? これを一言でいえば、要するに何でもできる。特殊部隊とは、孤立することを前提にしている部隊であるがゆえに、地上、海上は無論の事、空中でも水中でも少数で機動展開する能力を有している、と先ほど書いた。

補給の必要もなく、長距離通信能力も有し、破壊力も情報収集能力もある。その特異な能力を最も発揮できうる環境が、まさに尖閣魚釣島であり、そうした有事に備えて存在することこそ、特殊部隊の意義なのだと思う。

先制攻撃が有利になるのは、「主導の原則」からしてまちがいない。しかし、この部隊の存在は、先制されたとしても連続攻撃を食い止め、形勢を一気に逆転させる可能性を相手に匂わせる。要するに特殊部隊の存在こそが、安易には攻撃を許さない「抑止力」になりうるということだ。

同様の部隊を持つ国ほど、それをよく理解するだろう。リアルな戦闘こそが、日中双方のもっとも避けるべきシナリオのはずだからだ。