昔の趣味を復活したら復職できたケース
ここからは具体例を挙げながら、これまで私が出会ったメンタル不調者の特徴や、不調に至った経緯をお話ししていきます。ご自身、あるいは周囲に似たような方はいないでしょうか。まずは、傾向を知ることが大切です。知った後は、ぜひ解決に向けての手段を講じていただければと思います。
(中略)
Cさんは、職場の人間関係がストレスとなり、メンタルヘルス不調から休職になった50代の一人暮らしの女性でした。産業医として毎月面談を続けた結果、4カ月目から睡眠も安定してきたため、日中の時間を趣味など好きなことをして過ごすことを提案。ただ、「何か新しいことを始めるにも趣味がないため、何をしたらいいかわからない。昔はカメラをやっていたのですが……」とのことだったので、外出の際に気が向いたら写真を撮ってみることを提案しました。
1カ月後、写真について聞くと、昔のように植物の写真を撮り始めたとのこと。しかも、「都内にはなかなか花が咲いているところがないので、地方の寺社に出かけて、撮影している。公園は楽しそうに遊ぶ人たちがいて、やや行きづらいため、地方の静かなお寺や神社が落ち着く」とのことでした。また、その土地土地の歴史などをインターネットや図書館で調べてみるのも意外におもしろいと教えてくれました。
現在、Cさんはすっかり元気になり、復職。いまは同じような趣味を持った人たちとSNSのコミュニティーをつくったり、オフ会をしたりしているそうで、毎週末楽しく気分転換できているようです。
休職中に趣味を見つけ、定年まで働けたケース
Nさんは50代の女性ですが、ある日ご主人を突然交通事故で亡くしてしまいました。子どものいないNさんは、夫婦二人で連れ添ってきた二十数年の生活がいきなり終わってしまったことでうつ病になり、休職してしまいました。
休職後半年、1年と経っても、なかなかご主人の死から立ち直れないNさんに、毎月の産業医面談を続けていた私は、新しい趣味を持つことを提案。彼女は昔サックスをやってみたいと思っていたと打ち明けてくれたため、気分のいい日はサックスをやることをおすすめしました。
Nさんは、その後投薬やカウンセリングも続きましたが、サックスも続けてくれました。サックスを吹いている間は心の雲が晴れる(ご主人を思い出さない)、吹いた日は気分がいい、などの変化も次第に話してくれるようになりました。
その後、サックス教室にも通い、リサイタルで発表するまでになったNさんは、サックスを趣味として続けながら、復職後定年まで勤めることができました。