産業医としてこれまでに1万人の外資系エリートをみてきた武神健之さんは、メンタル不調で休職する人の中には、趣味がない人が多いと指摘する。武神さんが提唱する、趣味がない人必見の「好きなことが見つかるワーク」とは――。

※本稿は武神健之『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

ビジネスウーマン
※写真はイメージです(写真=iStock.com/PRImageFactory)

趣味を見つけ、継続することが大切

メンタル不調で休職している人と産業医面談をしていると、高い確率で「趣味がない、好きなことがない」という話になります。趣味がないとどうしても毎日が単調になってしまいます。仕事と家の往復だけでは、気分転換の機会がなく、次第に気持ちも沈んでいくのではないでしょうか。

ただ、実は「趣味があれば大丈夫」とも言い切れません。趣味は持っていても、忙しいからやらなくなってしまうこともよくあります。そして、趣味がある人ほど、やらなくなったときにメンタル不調になってしまうケースが少なくないのです。

ですから、趣味がない人は趣味を見つける、趣味を持っている人はその趣味を継続することが、それぞれポイントになります。

趣味がある人の強み3つ

では、なぜ趣味があるといいのか、その理由は大きく3つあります。

第一に、誰にとっても、好きなことをしている時間は楽しいものです。夢中になって好きなことと向き合えばお腹も空くし、心地良い疲れで早く眠くもなる。つまり、好きなことをやった日はたくさん食べられるし、よく眠れるのです。そして、嬉しい、楽しい、気持ちいい、清々しい、誇らしいなどのポジティブな気持ちになることは、自己肯定感を高めるためにも必要なことです。

2つめに、好きなことに熱中していると、他の日常の煩わしいことをしっかり忘れることができます。ある物事に集中している状態は、「フロー」とも言われ、脳内は軽い瞑想状態になるとも言われています。何かに熱中すること、集中することは、気分転換という効果をもたらしてくれるのです。

3つめに、趣味をやることは、何らかの形で他の人とつながることのきっかけになります。サッカーや楽器など複数で行う趣味だけでなく、一人での読書や手芸なども、その感想や出来栄えを人と共有すれば、仕事以外の人間関係を構築することが可能になります。

人は誰でも、日常的に所属しているコミュニティー(例:会社)の中でつまずいた場合、そこに行くのがおっくうになってしまうことがあります。そのようなときに、あなたの心を救ってくれるのが、趣味の人間関係といった非日常的なコミュニティーなのです。

昔の趣味を復活したら復職できたケース

ここからは具体例を挙げながら、これまで私が出会ったメンタル不調者の特徴や、不調に至った経緯をお話ししていきます。ご自身、あるいは周囲に似たような方はいないでしょうか。まずは、傾向を知ることが大切です。知った後は、ぜひ解決に向けての手段を講じていただければと思います。

武神健之『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』(PHP研究所)
武神健之『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』(PHP研究所)

(中略)

Cさんは、職場の人間関係がストレスとなり、メンタルヘルス不調から休職になった50代の一人暮らしの女性でした。産業医として毎月面談を続けた結果、4カ月目から睡眠も安定してきたため、日中の時間を趣味など好きなことをして過ごすことを提案。ただ、「何か新しいことを始めるにも趣味がないため、何をしたらいいかわからない。昔はカメラをやっていたのですが……」とのことだったので、外出の際に気が向いたら写真を撮ってみることを提案しました。

1カ月後、写真について聞くと、昔のように植物の写真を撮り始めたとのこと。しかも、「都内にはなかなか花が咲いているところがないので、地方の寺社に出かけて、撮影している。公園は楽しそうに遊ぶ人たちがいて、やや行きづらいため、地方の静かなお寺や神社が落ち着く」とのことでした。また、その土地土地の歴史などをインターネットや図書館で調べてみるのも意外におもしろいと教えてくれました。

現在、Cさんはすっかり元気になり、復職。いまは同じような趣味を持った人たちとSNSのコミュニティーをつくったり、オフ会をしたりしているそうで、毎週末楽しく気分転換できているようです。

休職中に趣味を見つけ、定年まで働けたケース

Nさんは50代の女性ですが、ある日ご主人を突然交通事故で亡くしてしまいました。子どものいないNさんは、夫婦二人で連れ添ってきた二十数年の生活がいきなり終わってしまったことでうつ病になり、休職してしまいました。

休職後半年、1年と経っても、なかなかご主人の死から立ち直れないNさんに、毎月の産業医面談を続けていた私は、新しい趣味を持つことを提案。彼女は昔サックスをやってみたいと思っていたと打ち明けてくれたため、気分のいい日はサックスをやることをおすすめしました。

Nさんは、その後投薬やカウンセリングも続きましたが、サックスも続けてくれました。サックスを吹いている間は心の雲が晴れる(ご主人を思い出さない)、吹いた日は気分がいい、などの変化も次第に話してくれるようになりました。

その後、サックス教室にも通い、リサイタルで発表するまでになったNさんは、サックスを趣味として続けながら、復職後定年まで勤めることができました。

趣味がない人が「好きなこと」を見つけるワーク

「好きなこと」が多ければ多いほど、日常生活にたくさんの変化が生まれ、その結果、より充実した日々を送ることができ、ストレス知らずになれます。

とはいえ、どうやって「好きなこと」を見つければいいのかわからない、という人もいるでしょう。そんな方におすすめのワークを紹介したいと思います。

まず、紙を1枚用意します。【図表1】を参考に、まずは4つの枠を描きます。そのうえで縦横それぞれ「一人でできること」「数人でできること」、「外で(晴れの日に)できること」「室内で(雨の日に)できること」というタイトルをつけてください。

そして、まずは一人でできることを考え、それを屋内、屋外に分類していきます。次に、同じように「数人でできること」を考え、同じように屋内、屋外に分類していきましょう。

これだけでも十分ですが、「運動系活動」「文化系活動」という枠組みを追加すると、さらに細分化することが可能になります。それぞれ1つずつ挙げたとしても2×2×2=8個になりますし、2つずつ挙げれば計16個の「好きなこと」を可視化できるのです。

ポイントは頭で考えるだけではなく、実際に行動に移すことです。ですから、全部の枠を埋める必要はありませんし、本当に「好き」かどうか、深く考える必要もありません。まずはやってみて、自分に合うか合わないか検証すればいいのです。