反対を押し切って決めた一般企業への就職

そんな悩みを抱えていた2008年、大東さんにオランダへの交換留学というチャンスが舞い込んだ。日本で研究を続けることへの疑問を抱えたまま渡蘭した彼女に、オランダの人々の生き方は衝撃的だった。

まず、夜は午後6時には家に帰るのが当たり前。ワークライフバランスが定着しているオランダでは、家族の時間をみんなが大事にしているからだ。とはいえ、成果はきちんと出している。つまり、残業だらけでしか成果が出せない日本式の研究は、生産性が低いということになる。

この衝撃の体験が、大東さんの考えを変えた。日本に帰るやいなや、周囲の反対も押し切り、彼女は一般企業に就職することを決める。生産性の高い企業で仕事をしたいと考えて、プロクターアンドギャンブル(P&G)に行きつき、就職を決めた。

「君には残業するほどの仕事を与えていない」

期待通り、P&Gは生産性の高い会社であった。そして、徹底していた。

たとえば、大東さんが残業しようとすると、上司から「大東さんに残業するほどの仕事はないでしょう?」と叱られた。与えた仕事は時間内で終わるはずの量であり、それができないのであれば時間がかかっている部分のスキルを磨くためのトレーニングが必要なので、研修を受けなさいと上司は言うのだ。P&Gには各種のスキルトレーニングの研修がたくさんあり、申し込めば誰でも受けられる。

「仕事を終わらせる」ことだけが目的であれば、残業して時間を延ばせば済む。しかし、それでは生産性は上がらないというわけだ。なるべく早く終わらせることを徹底するためには、自分でそのためのスキルを必死に磨かなければならない。ワークライフバランスとは、地道な努力を伴う大変さがあることを痛感した。