緊急事態宣言が解除され、各地の美術館が続々と再開している。だが混雑を不安視する声もある。元展覧会企画者で日本大学芸術学部の古賀太教授は、「日本の展覧会は世界的にもトップ10にはいるほど混雑している。これは新聞やテレビといった大手マスコミが、自ら展覧会を主催して自社メディアで盛んに宣伝するという日本独自の方式のせいだ」という――。

※本稿は、古賀太『美術展の不都合な真実』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

大阪市立美術館で行われる「フランス絵画の精華」展の会場入り口に設置されたサーモグラフィー=2020年5月25日、大阪市天王寺区
写真=時事通信フォト
大阪市立美術館で行われる「フランス絵画の精華」展の会場入り口に設置されたサーモグラフィー=2020年5月25日、大阪市天王寺区

新聞社やテレビ局が展覧会を企画するのは日本独自

戦後の美術展で伝説的に有名なのは、172万人を集めた1964年の「ミロのビーナス特別公開」(国立西洋美術館、京都市美術館)と295万人の「ツタンカーメン展」(1965年、東京国立博物館、京都市美術館、福岡県文化会館)や151万人の「モナ・リザ展」(1974年、東京国立博物館)あたりだろうか。

注目すべきは「ミロのビーナス特別公開」も「ツタンカーメン展」も朝日新聞社主催で、「モナ・リザ展」は「協力」に朝日新聞社とNHKが入っているという事実である。

なぜ美術展に新聞社が絡むのか。その理由としては、当時から新聞社は海外に支局を持ち国際的なネットワークを持っていたこと、外貨持ち出しが自由であったことなどが挙げられている。

新聞社やテレビ局が展覧会を企画するのは、日本独自の方式である。海外で新聞社が展覧会の企画をしていると言うと、まず驚かれる。ルーヴルやオルセー美術館(パリ)など日本に何度も貸し出したことのある美術館は日本式を熟知しているからいいが、フランスの地方の美術館で新聞社の社員が作品を借りたいと言えばまずわかってもらえない。それはメセナ、つまり文化事業の資金的援助かと聞かれる。

「いや違います、新聞社が貴館から作品を借りて展覧会を企画、展示してくれる日本の美術館を探します」というと怪訝な顔をされる。そして「新聞社が展覧会を企画したら、まともな美術記事は書けないでしょう」と来る。「新聞社が宣伝をして、作品を売り飛ばすのでは」と心配されたことさえある。