暴力を黙認する文化を変えるため、声を上げ続ける

これらの取り組みは、今後の活動の継続を見据えてのこと。ガカッドさんは、コロナ禍が収まってもルナスの活動を続けるつもりだ。「相談者の反応から、私たちの活動はやる価値があること、そして様々な性自認(ジェンダー・アイデンティティ)や性指向(セクシュアル・オリエンテーション)の人が、性差に基づく暴力やリプロダクティブ・ヘルス(性や生殖に関する健康)の問題について誰かに相談したいと切望していることがよくわかりました」

ルナスの説明やオンラインカウンセリングについてフィリピン語で伝える。英語が苦手な人にもメッセージが届きやすい
ルナスの説明やオンラインカウンセリングについてフィリピン語で伝える。英語が苦手な人にもメッセージが届きやすい

「それに、ジェンダーベイスト・バイオレンスやセクシュアリティの問題をオープンに語りにくい風潮を変えたいんです。暴力が振るわれているケースを実際に知った人の多くは、被害者に『我慢していればなんとかなる』と言うだけで、加害者に暴力をやめさせる方向には向かわない。声を上げ続けなくては」

そのため、ルナスは情報発信も行なっている。例えばフェイスブックを通じて「暴力を振るわれて当然の女性なんていません」「私たちはあなたの話を聞くためにここにいます」「社会が暴力を黙認したり被害者を非難したりすれば、暴力はエスカレートします」といったメッセージをイラストとともにわかりやすく伝えている。

「暴力を振るわれていい女性なんていない!」と力強く訴える。どのメッセージにも、ジェンダー平等を推進する運動を象徴する紫色が使われている
「暴力を振るわれていい女性なんていない!」と力強く訴える。どのメッセージにも、ジェンダー平等を推進する運動を象徴する紫色が使われている

最後に、ガカッドさんが「研究者」という枠を超えた活動を始めた理由を尋ねてみた。「私の専門であるフェミニズムの理論を実践に移すためです。もちろん学術的な調査をするのは好きですが、それだけでは『女性が弱い立場に追いやられている』という問題には対処できません。ジェンダーのパワーバランスを変えていくために、オンラインでの支援とオンライン・アクティヴィズムは重要な要素となるということを、論文にもしたいと思っています」

ルナスのオンライン支援の取り組みは、「コロナ以後」のDV被害者支援のあり方として示唆に富むものではないだろうか。また、活動は小規模ではあるが、異なる分野の専門家や団体、大学とも連携を進めることで、これからより多くの被害者/サバイバーに支援が行き渡る可能性を秘めている。埋もれがちな被害者にリーチし、さらに女性への暴力を黙認する社会のあり方を変えていこうとするルナス・コレクティブ。今後の取り組みに期待したい。

写真=iStock.com 写真提供=ルナス・コレクティブ

福田 美智子(ふくだ・みちこ)
フィリピン在住ライター

日本での書店勤務等を経て、フィリピンとコスタリカでジェンダースタディーズや平和学を学ぶ。現在はマニラ首都圏の下町に暮らし、メディアコーディネートや記事の執筆などを行う。海外書き人クラブ会員