SNS活用し、被害者支援に乗り出す女性団体

ここでは、新型コロナ対策の都市封鎖を機に、3月29日に設立された民間団体「ルナス・コレクティブ」(以下ルナス)の取り組みを紹介したい。ルナスは暴力や性の問題に悩む人向けのオンラインカウンセリングを提供しており、研修を積んだボランティアによってマニラ首都圏を拠点に運営されている。

「ルナス・コレクティブ」代表で、フィリピン大学のソーシャルワーク・コミュニティ開発学部女性開発学科助教授のサブリナ・ガカッドさん
「ルナス・コレクティブ」代表で、フィリピン大学のソーシャルワーク・コミュニティ開発学部女性開発学科助教授のサブリナ・ガカッドさん

今回のコロナ禍で、オンライン特化型の支援活動は社会状況と女性のニーズに合致していると思われるが、フィリピンで取り組む団体はまだ多くない。ルナスはその先駆けの一つと言えよう。

「ルナス」はフィリピン語で「癒し」を意味する。現在はフェイスブックでのみ活動を行なっており、相談者はフェイスブックのメッセンジャーを使って支援者に連絡を取ることができる。

ルナス設立の経緯や活動内容について、代表のサブリナ・ガカッドさんにEメールやチャットでお話を聞いた。彼女は、名門国立大学、フィリピン大学のソーシャルワーク・コミュニティ開発学部女性開発学科で教鞭をとる助教授でもある。

DV被害者にオンラインで“心の応急処置”を

ガカッドさんが活動を開始したのは、コロナ禍により世界中でジェンダーベイスト・バイオレンスが増加しているという情報に触れたことがきっかけ。「どうしたら女性はコロナウイルスからだけでなく、暴力や望まない妊娠から身を守れるのかと自問しました」

ルナス・コレクティブのフェイスブックの投稿から。「DVって何?」という問いに簡潔に答える内容。加害者は暴力を「パートナー関係ではふつうのこと」と正当化したり、被害者のせいにしたりするとも説明
ルナス・コレクティブのフェイスブックの投稿から。「DVって何?」という問いに簡潔に答える内容。加害者は暴力を「パートナー関係ではふつうのこと」と正当化したり、被害者のせいにしたりするとも説明

活動を始めてみたところ、毎日のように相談が寄せられるという。「DVは身体的、心理的・精神的、性的、経済的暴力などさまざまな形態がありますが、封鎖により被害者はより孤立させられています。外に出ることや友人・親族と話すことを加害者から禁じられたり、携帯電話を没収されたりすることもあります。コロナがDVを深刻化させているのです」

具体的にどのような支援を行うのだろうか。「言うなれば“心の応急処置”です。支援を求めてくれた人に私たちができるのは、まず聞くこと。不安や恐怖、恥の感覚を抱えた被害者にとって事実を話すことは、実はとても大変なんです。安心感をもってもらうために、とにかく聞く。どのような解決策があるか、選択肢を示すのはそれからです。それが『私たちはあなたの側にいて、あなたのことを尊重します』というメッセージになり、その人に自分の力を信じてもらうことにつながります」

課題もある。今は試験運用の段階で、フェイスブックを使っていない被害者にリーチできないし、緊急のケースにも直接介入ができない。このため、緊急性の高い事案については、必要に応じて警察や自治体の部署につないでいるという。

最近では、フェイスブックを通じた支援活動のほかにも、自治体との提携を進めてDV被害者の支援を行う機関・団体のデータベースづくりにも着手した。また、性や生殖の問題で専門的な支援が必要なケースがある場合は、その分野を専門とするNGOに受け入れてもらう体制も構築した。