大臣の反応は?
その直後に、国会議員・国光綾乃さん主催のシンポジウム「議員の働き方改革」が開催された。国光さんの議員事務所の働き方改革をコンサルしていた小室さんも、そこにモデレーターとして参加したところ、小泉大臣も現れたのだという。
そして、「シンポジウム後『あのDVD、本当にありがとうね。妻も私もとても勉強になった』と、とても丁寧にお礼を言って帰られ、DVDをご夫婦で見られたんだな、良かったと思いました」。
小泉大臣の育休取得の発表があったのは、そのすぐ後のことだったという。
男性育休はなぜ必要か
小泉大臣が取得後、「ベビーシッターを雇うお金があるのに、なぜ育休を取得するんだ」という意見がネットに表れたが、これは全く意味がない批判だと小室さんは断言する。
「産後うつを予防するために重要なことは①夜の育児と②大変だけれどかわいいよねという感情、この2つをシェアすることなんです。まず1つ目の夜の育児ですが、夜にシッターさんに泊まっていただいて妻とシッターさんで夜泣き対応をするのは現実的ではありません。しかし夫が翌日も勤務の場合に、夫婦で夜泣き対応をしようとすると、夫が睡眠不足になって翌日の仕事に支障が出てしまうかもしれない。それなら自分だけでどうにかしようと、妻が一人で対応してしまうことの積み重ねで、睡眠時間が確保できず、産後うつが重症化していくケースが少なくありません。産後うつが重症化すると、感情がなくなり、子どもをかわいいと思えなくなることで虐待につながったり、自殺に追い込まれたりするケースがあります」
産後に自殺する女性の数が、世界でも日本は抜きんでている。国内で子育てをしていく女性が、世界的に見てもどれほど過酷な環境を強いられているのかを如実に示すデータだろう。
「2つ目の感情のシェアですが、これが妻にとって必要だということが知られていないから、今回のような批判が起きるんだと思います。孤独感を感じやすい産後の妻は、たんに夫にもオムツを変えてミルクをあげるなどのタスクを行ってほしいわけじゃないんですよね。大変なことはもちろんたくさんあるけど本当にかわいいねという感情を、愛するパートナーと毎日シェアできることこそが一番のサポートになるんです。夫婦一緒に体験するからこそ、一緒に乗り越えようと協力もしていけます。感情のシェアが大事だからこそ、シッターさんがいれば済む、ではなく夫の出番が重要なのです」
個人差はあるものの、とくに産後2週間~1カ月が産後うつにかかりやすいピークの時期であることが、「妊産婦のメンタルヘルスの実態把握及び介入方法に関する研究 平成26年度総括・分担研究報告書」内で報告されている。
熟年離婚が起きる原因としても、産後の夫の様子に妻が愛想を尽かして『そのころから離婚を決めていた』という妻側の声が多いそうだ。子どもが生まれてから妻が変わってしまったと感じている男性は少なくないかもしれないが、それは妻が産後うつ病に罹患したのにもかかわらず未治療のままに放置されたせいで、精神的健康に影響を受けた結果なのかもしれない。産後すぐに、たった2週間の育休を取るか取らないかで、夫婦の未来までも大きく変わる可能性が高いのである。