今後、国として取り組んでいくべきこと
小室さんいわく、今後国内の子育て環境を改革していくために必要な取り組みは最低限2つあると言う。
1.母親学級を「両親学級」に! 学びのゴールは出産ではないはず
ひとつは、全国の自治体で行われている「母親学級」を「両親学級」に変えていくこと。
「最近やっと、国のガイドラインも、夫婦で受けるようにしてくださいというふうに変わってきたのですが、現状の内容は母が中心。沐浴の仕方や出産の呼吸の仕方、背中のさすり方などのレクチャーを受けたあとに、男性が妊婦ジャケットを着るだけ。これだと、研修の目的は『無事に出産すること』になってしまうんですよね。『出産に向けて妻の大変さを知りましょう』という内容は3分の1くらいにしていただき、残りは『生まれたあと、いかに夫婦で助け合っていくか。夫がやるべき行動のイメージ紹介』等にしてほしいと思います。男性はこの機会を逃してしまうと、その後勉強する機会がなかなかないので。育児を経験した先輩男性を中心にした座談会などのプログラムが、両親学級という形でもっと広がってくれればと思います」
2.「勤務間インターバル規制」の義務化
「大きな法改正で、まずは男性の育児休業取得を企業に義務化することが大事ですが、それは現在、秋の国会に向けて法案が作られる段階に入っています。これが停滞せずに進んでいくようにしっかり見守りたいと思います」
その上でもうひとつ大切なのが、「勤務間インターバル規制」を義務化することだという。
「先進国のほぼ全てが導入している『勤務間インターバル規制』が日本にだけありません。EUに加盟する全ての国では、前日帰宅したら連続11時間あけないと、翌日の業務を開始してはいけないことが法律で決まっているんです。たとえば繁忙期に帰宅が23時や24時になった場合の、翌日の出勤時刻は昼頃となります。仕事時間帯や繁忙期は業界にとって多様だと思いますが、勤務間インターバル規制があれば、毎日一定の時間を自宅で過ごせるようになるので、夫が育休取得後に職場に復帰しても仕事一色にならずに、育児に参画することができます。睡眠時間を確保した上で、子どもと触れ合う時間も持つことができるんです」
日本でも検討が進んでおり、この前の法改正で努力義務になった「勤務間インターバル規制」。しかし努力義務だと、ほとんどの企業は実行しないのが実情だ。だからこそ絶対やらねばならない“義務”に再度法改正する必要があると小室さんは話す。
「今、私たちの提言が届いて、与党から、男性に産後4週間は給料を100%保証した休みを取れるようにする案が出ています。産後うつや自殺をなんとしてでも防ぐために、男性は最低2週間の育休を取得してください。法改正を私も頑張りますので、出産を控えたご夫婦にはぜひ一緒に『ママやめ』を見ていただければと思います。まずは現状を知ることから始めてほしいです」
虐待、自殺率、少子化、働き方、身近にあるさまざまな問題の解決を握るキーとなる「男性の育休取得」。その重要性を改めて考える上で、『ママやめ』の鑑賞は大きな一助となりそうだ。
information
『ママをやめてもいいですか!?』。5月31日までオンライン上映中。PCやスマートフォンから鑑賞することができる。
文=浅田 喬子 写真=iStock.com
資生堂を退社後、2006年に株式会社ワーク・ライフバランスを設立。1000社以上の企業や自治体の働き方改革コンサルティングを手掛け、残業を削減し業績を向上させてきた。その傍ら、残業時間の上限規制を政財界に働きかけるなど社会変革活動を続ける。著書に『働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社』(毎日新聞出版)『プレイングマネジャー「残業ゼロ」の仕事術』(ダイヤモンド社)他多数。