育休100パーセントを目指して「まずは官から始めよう」

「小泉大臣には、それまでも、何度か政策提言をお話にいくことがあったのですが、去年の3月に小泉さんと私が140名ほどの経営者へ向けて基調講演を行う、大きなシンポジウムがあったんです。そこで私は『2019年に、経営者としてやるべきことは男性育休の推進』とお話しさせていただいたのですが、そのときは小泉さんもまだ独身で、育児についてもお詳しくなかったので、私は、男性の育休取得が進まないと働き方も変わっていかないし、女性活用も進んでいかない。これが色んな改革のキーなんですとお伝えさせていただきました。そのシンポジウムの最後に小泉さんが掲げられた言葉が、『まずは官から始めよう』です。育休100パーセントを目指すには、まず官僚から育休をとれる組織にしていかないと駄目だという呼びかけをされました」

そのときは、まさか1年後に小泉さんに子どもが生まれるとは夢にも思わなかったと当時を振り返る小室さん。ただ、そのときに男性育休が日本社会にとってどれほど重要かインプットされた小泉さんは、子どもが生まれるとなった当初、かなり主体的に「育休を取ろう!」と思っていたのだという。しかし、そのタイミングで大臣になったことで、育休を取る可能性について、世論からバッシングを受けることになるのである。ネットにも批判意見が溢れた。

「地元の後援会の方たちからも『国民感情を考えると今は育休を取るべきではない』とアドバイスされて、自分は育休を取らない方が世論にかなっているという考えに、徐々に傾いていらっしゃるように見えましたね。ただ、ご本人の耳に届かないところで、実は30代男性の多くが小泉さんに育休を取ってほしいと強く願う声があったんです。しかしながら、30代の男性たちが今、組織内で『育休を取りたい』なんて言うと降格されたり、意に沿わない転勤を命じられてしまったりする可能性もあるので声はあげられないものの、『こんな、歴史的に男性の育休が注目されるタイミングはない。それだけに、自分たちの世代が育児休業をとれるか否かは大臣の育休取得にかかっている』という思いを、水面下で私たちに伝えてこられる方が多かったんですね」

30代男性たちの本音とネットの声が真逆状態であったというその頃。小室さんが、動き出した。

「表立って聞こえてくるネガティブな声にだけ引っ張られては、本来の世論を受け取れずに判断が変わってしまうと危機感を感じたんです。そこで、意思決定の材料にしていただける情報を提供しようと考えました。一つは、地元のワーキングマザーたちが立ち上げて、その時すでに4000筆以上集まっていた大臣の育休取得に賛成する署名活動の結果です。もう一つは、映画『ママをやめてもいいですか!?』でした」

ちょうどそのとき、大臣が友人3名に育休取得について相談をした。すると3名ともから「そういう相談ならば、小室さんに聞いたらどうか?」と返事が来たという。

「3人のご友人のおかげで、署名と、映画『ママをやめてもいいですか!?』のDVD、産後うつに関するさまざまなデータやプレゼンテーション資料をお届けすることができました。特にDVDについては、できる限りご夫婦で見てくださいとお伝えしたんです」