最初に求められたのは、やはり広報、広告のスキル。広報課長、広告部長と昇進し、「野菜生活100」のTVCMなど、世間の注目を集める仕事もした。傍目はためからは自分に合った環境を得ての順調なキャリアアップ。しかし、ステージが上がったからこその試練もやってきた。40代半ばでIR部長に就任。投資家向けに財務状況や業績を広報する業務は、まったくの未経験だった。

「びっくりしましたね。IRに必要な財務や経理の経験なんてまったくない。社長は『コミュニケーションの一部だから、できるよ』と言ってくださいましたが、できるかなぁと……。今となっては笑い話ですけれど、ROE(株主資本利益率)はロイって読むのかなと思ったぐらいで、その程度の人がIRの責任者。われながら倒れそうでした(笑)」

「野菜一日これ一本」などのCMが話題に/健康事業部のメンバー/女性管理職の勉強会で

相手に動いてもらうには理由とメリットを示す

そこから、知らないことは勉強するしかないと、財務についての本を読み、わからないことは財務経理部の社員にどんどん聞いた。曽根さんが常人ではないと思わせるのは、業務に必要なことをインプットした後、個人株主を増やしたり、海外の投資家にESG投資をしてもらったりと、新しいビジョンを掲げて戦略的に仕掛けていったところ。新しいフィールドに臆さず、攻めて結果を出し「それでいっぱい皮がむけた。怖いものがなくなりました」と語る。そんな“開拓者”としての才覚を見込まれ、3年後にはダイバーシティ推進室の立ち上げ責任者となった。

「人事系の仕事自体、初めてなのに、戦略を立案しろということですから(笑)。2015年当時は、まだダイバーシティの参考書があまりなかったんですよ。そこで、ダイバーシティの先進企業20社ほどに、話を聞かせてもらいました。社内では全事業所を回り、実態を見聞きしました。まずは結婚や育児、介護で離職しがちな女性が長く働き続けられるようにしたいという目標に向けて動いたんですが、新しいことをやろうとすると、どうしても衝突は起こりますよね」

それまでの日本企業的なやり方を通そうとする管理職たちにも対応したという。そこで、広報、広告、IRの仕事で主に社外に向けていたコミュニケーションスキルが活きた。「人に動いてもらうには、“理由とメリット”をセットで提示すること」というはっきりした考えをもとに、これからは女性が働きやすくすることが必要だと訴えていく。相手に自分事だと思ってもらい、腹落ちしてもらうという根気のいるコミュニケーションを続けた。

そして、3年の時限組織だったダイバーシティ推進室が役割を終えると、現在の健康事業部長に。次々に新しい分野に挑戦するパワーはどこから来るのだろうか?

「新しい部署に行くと、何も知らない自分にいったんは落ち込むんです。けれど、大好きなワインを飲むと、ネガティブなことを全部、忘れてしまう(笑)。あとはやはり、会社からのオーダーをこなすだけではなく、そこに自分がやりたいと思うことをうまくすり合わせていくと、仕事はだんぜん面白くなる。それを戦略的に考え実現していくことが、仕事を楽しむ秘訣ひけつだと思います」

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