21年卒の求人倍率は1.5を割る可能性も

実際に時事通信社が主要100社を対象に実施した「2021春新卒採用計画の調査結果」(3月24日)によると、採用方針を明らかにした71社のうち、20年卒に比べ採用を「減らす」と答えた企業は24社、「採用増」が10社。前年並みが37社だが、「未定・未回答」が29社もある。

採用数の減少幅が大きいのは日本航空の26%減の590人、全日本空輸の28%減の580人をはじめ、旭化成、東京ガス、JR東日本が30~40%前後の削減を予定している。時事通信が調査したのは2月下旬から3月中旬だが、その後に「緊急事態宣言」が発出されるなど事態は悪化している。

前出のモザイクワークの髙橋氏は「新型コロナの感染がどこまで長期化するかにかかっているが、緊急事態宣言以降、潮目が変わり、長期化リスクの覚悟を決めた企業が出ている。当然、採用人数を減らす動きが出てくるし、すでに半分に減らした企業もある。とくにインバウンドの影響や機械製造、自動車、海運など事業ダメージが大きい企業は採用どころではないという状況になる可能性もある。当然、求人数が減ると、求人倍率も下がり、1.5を割るのではないか」と指摘する。

22年卒はもっと厳しくなる

採用アナリストの谷出氏はこう語る。

「コロナの影響を受ける企業もあれば、そうでもない企業もある。これまでの6年の売り手市場で採用が厳しかった企業が積極的に採りにいく動きもあるだろう。コロナの収束度合いにもよるが、来年4月に会社がどうなっているかを見据え、ちょっと余裕がないなという企業は減らす。全体として20年卒よりも下方修正する可能性はある。20年卒の求人倍率がやや下がり、21年卒は普通に戻るという感じだろう」

普通とは、前に述べたように求人倍率だと1.5程度ということになる。2人の専門家の見通しは若干異なるが、求人倍率は落ちることでは共通する。また、このまま感染が終息せずに長引けば、現在大学3年の2022年度卒はより厳しくなるという見方で一致する。

「21年卒に関してはすでに採用計画を立てているところもあるので影響は軽微にとどまるかもしれないが、問題は22年卒。仮に今年度中にコロナが収束すれば22年卒への影響もそれほど大きくないが、これは超楽観シナリオかもしれない。2番目は年度を超えて来年4月まで感染が終息しないとすれば、事業計画を立てる段階で採用抑制の動きになる。そうなると、求人倍率が下がり、本格的な買い手市場に入るだろう」(髙橋氏)

すでに22年度卒に向けた夏のインターンシップの告知や募集も始まっている。谷出氏は「コロナの収束が来年まで続くようであれば、採用計画の見直しは必至であり、22年度卒は買い手の方向に落ちていくだろう」と指摘する。

新卒市場が回復するには長時間かかる

21年卒の求人倍率が20年卒の1.8から1.5程度に下がり、22年卒はさらに低下する可能性があるとの見立てだ。しかもそれだけで終わる可能性も低い。いったん落ち込んだ経済は回復するまでに相当の年月を要する。ITバブル崩壊時は求人倍率1.5を割ってから回復するまでに7年を要し、リーマン・ショック時も4年もかかっている。

今回のコロナ不況に関して、国際通貨基金(IMF)は2020年の世界全体の成長率は前年比3.0%減となり、世界恐慌以来の水準になると予測している(4月14日発表)。日本の成長率も前年比マイナス5.2%と見込んでいる。ただし、この予測も感染拡大が20年前半で峠を越えるとの想定であり、感染が長引けば世界の経済はさらに悪化することになる。

コロナ恐慌によって新卒採用市場が買い手市場に転じれば、売り手に戻るまでに相当の歳月を要する可能性もある。後年、「2021年卒を契機に氷河期が始まった」と語られるかもしれない。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。