変わる「先生」の役割

【中野】それは本当にそうですね。そして、学び方が変わると先生の役割も変わるでしょうね。

大学院に行っているときにも感じたのですが、学生のほうが先生よりも、その分野についてよく知っていたりするんです。小中学校でも、そういうことは既に起きている領域もありますし、さらに頻繁に起こるようになると思います。ゲーム開発をしている子どももいますから、子どものほうが先生よりもプログラミングができたりします。

20世紀までの教育は、「先生が持つ知識を子どもに教える」という形でしたが、それが成立しなくなるでしょう。eラーニングが進めば、知識はデジタルツールが教えてくれるようになりますしね。すると先生の役割が変わり、知識そのものを教えるよりも、学びをどう設計するとよいか、どう問いを立てるのか、学び方を教えるチューターの役割が求められるようになると思います。そうした形にいち早く適応できた学校が、これからは伸びると思います。

飛び級も可能になる

【牛窪】学びなおしができるだけでなく、「飛び級」もできるのが、eラーニングのいいところでもありますよね。例えば、先の「スタディサプリ」の(不明点に戻る)話は「逆もまた真なり」で、中野先生のように学術優秀な子たちは、高校2年生でも既に高3のカリキュラムに進み、スイスイ問題をこなしていました(笑)。

いまや小学生であっても数学が得意な子たちは、動画で大学生レベルの授業をのぞき見しています。「因数分解を学ぶのは中学生から」と決めつける時代ではなくなりました。

【中野】一人ひとりに合った「オーダーメイド教育」ができますよね。

日本だけの問題ではありませんが、平均的な子どもに合わせた教育をすると、突出してできる子が犠牲になるという問題が指摘されています。それでアメリカでは、(特別に才能のある子ども向けの)ギフテッド教育に光が当たりました。日本の場合は「ギフテッドの子どもを飛び級させたとしても、結局その子はそこで周囲となじめなくなる問題が発生するから、我慢させて周りの人と一緒に進級させたほうがいい」という考え方で、一様に教育されてしまいます。仕組みの問題で才能の芽を伸ばせない。

これは日本の残念なところだと思います。前回(コロナ対応に見る、ダイバーシティなき集団が有事にものすごく弱い理由)、『水滸伝』の宋江(そうこう)を引き合いに出して、「いろんな人の強みを見つけ出し、それを活かすことができるのが良いリーダーではないか」という話をしましたが、広い意味では教育でも同様かもしれません。多様な子どもたちの力を引き出し、活かすことができる教育システムが必要ですね。

構成=大井明子

牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
マーケティングライター

マーケティング会社インフィニティ代表取締役。修士(経営管理学/MBA)。2020年4月より、立教大学大学院・客員教授。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。財務省・財政制度等審議会専門委員、内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)ほか、著書を機に流行語を広める。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。

中野 信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者

東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)などがある。