一斉休校後、教育はどう変わるか
【中野】一斉休校で、ITを使った教育「EdTech(エドテック)」に注目が集まりました。日本はeラーニングではむしろ後進国という扱いでしょう。もっと進めるべきだと思っていたので、今はいいチャンスなのではないかと思います。
【牛窪】日本では「ICT教育」と言われることが多いですね。確かに、ちょうど今年4月から、日本でも小中学校で「デジタル教育」が本格的に始まり、政府も力を入れようとしていました。ママたちのプログラミング教育への関心も、急伸していました。
その最中に襲った、コロナショック。日本は中国や欧米各国に比べ、まだPCやタブレット、Wi-Fi接続が十分でない家庭も多い。子を持つ世帯でも、2割程度はIT環境が不十分だと言われます。そんな中、今回の一斉休校の影響で、教育が均しく受けられなくなってしまうのは、そのまま日本社会の弱さを露呈しているようで悔しいですよね。
【中野】もちろん、みんなで同じ場所に集まることには、コミュニケーションのひな型を学べるという意味もあります。ただ、eラーニング化でできることは、ただのデジタル化だけではなく、もっと積極的なプラスの面もあるんです。これを今の学校がなぜできないのか。本当はやる気になればクリアできるもののはずなんですが……。それをせずに、学生にだけ「新しい挑戦を」とか「自分の壁を破ろう」とか言ってもあまり響かないのではないでしょうか。
日本は天然資源が少なく、人を軸にした「教育立国」として生き延びる以外には活路が見いだしにくい国であるにもかかわらず、そこに割かれるリソースが極めて少ないという問題がずっとありました。これをきっかけに変わってほしいと思いますね。
教育論を語る人に「インテリ」が多い問題点
【中野】一方で、学校の先生を含め、教育論を語る人たちが、結構「インテリ」ばかりというところには、ちょっと問題があると思うんです。つまり、「勉強とは楽しいもの」「子どもたちは、その楽しささえわかれば自分からやるものだ」と思っていて、eラーニングをその観点で作ってしまうところがある。
でも、教育というのは二層あって、まずは文字を読めるようになる、書けるようになる、基礎的な計算ができるようになるための「基礎体力」が必要です。これが欠けていると、そもそも問題文を理解できなかったり、先生の言っていることすらまともに受け取ることができなかったりします。まずは基礎的な理解のための知力をつけてあげることが必要です。
「学ぶ喜び」というのは、この基礎体力という土台の上に建つものです。この基礎の部分をどうつけるかについてはなおざりのままで、「学ぶことは楽しいよ」と言っても砂の上に城を築くようなものになってしまいます。この基礎体力の部分を、eラーニングでどうサポートできるのかを考えていかなくてはなりません。
【牛窪】リクルートグループが運営するオンライン学習サービス「スタディサプリ」は、取材するとそのあたりにも力を入れている様子が分かります。また、受講する高校生や大学生に話を聞いても、「塾や学校の授業中は、基礎的な不明点でも『スルー』しちゃうけど、スタディサプリならそこまで自由に戻れるからいい」と言います。
私が「なぜ授業中は、質問しないの?」と聞くと、「だって、自分だけのために授業を止めたら、みんなに迷惑がかかるから」「恥ずかしいから」だと。つまり、「腕立て伏せはできるけど、腹筋はできない」子が、周りを気にせず自分のペースで「腹筋を鍛える」段階に戻って学習できるのが、大きなメリットなんですね。