高収入なのに幸せになれない人

【牛窪】一方、同じ調査で、エリア別に「幸福度」も見たのですが、その高低は年収の高低との間に、必ずしも相関が見られませんでした。大手企業との調査で守秘義務があり、詳しくは申し上げられないのですが……、例えば妻や夫の年収がそこそこ高い地域でも、公務員が多かったり、風紀が厳しそうだったりするエリアでは、共働き女性の幸福度が低く出たんです。

脳科学者の中野信子さんとマーケティングライターの牛窪恵さん。

ある郊外のおしゃれエリアでは、通勤時間が平均1時間程度で多忙なのに、それでも「家事時間を減らしたくない」とする割合が高かった。その地域では「こうあらねば」という概念が強く、女性も自分を追い込んでしまっているのかな、という印象を受けました。

【中野】心理学でいうところの「規範意識が高い」ということでしょうか。それに加えて、何でも一人でできるようになりなさい、と子どもの頃からトレーニングされてきて、そのとおりに振る舞い、誰にもリソースを借りることを頼れないでいるのではないか、という見立てもできますね。

家で過ごす時間が増え「コロナ離婚」も?

【牛窪】今回、一斉休校とテレワークの推進、そして緊急事態宣言による行動自粛要請で、家族のあり方にも変化が起きるのではないかと思います。

妻自身はもちろん、夫も子どもも外に出られなければ当然、自宅で家族が一緒に過ごす時間が増える。その結果、「仲良し夫婦が増える」と見る専門家もいますが、取材してみると多くは違います。食卓は夫が仕事場として独占し、妻が部屋の片隅で仕事の電話をしようとすると「昼ごはんは?」と夫や子どもが茶々を入れてくる。平日も朝昼晩、3食作らなくてはならなくなり、体力も気力もヘトヘト。「もう、コロナ離婚したい!」と洩らす女性が少なくないのです(笑)。

実際に中国では、新型コロナの感染が落ち着いた3月に、離婚手続きの予約が殺到したそうですよ。

【中野】そうでしょうね。自分と向き合うことにすら慣れていない人がいきなり、身近な人と24時間向き合わなきゃならないとなったら……(笑)。

【牛窪】しかも今回は外にも出にくいですから。みなさんイライラが溜まっているようです。

でも実は、コロナショックが起きる前から、政府はテレワークを推進していました。東京五輪の開会式が予定されていた今年7月24日を「テレワーク・デイ」と定義し、普及率を3割超に拡大する目標を掲げていたんです。

最大の理由は「2025年問題」。人口ボリュームの団塊世代が全員、75歳以上になる頃には、自宅で親を看られる体制を整えないと、働く男女(子世代)の「介護離職」が急増してしまう。それまでに、何としてもテレワーク人口を増やしたかった。そう考えると、新型コロナによるテレワーク急増は、その予行演習の契機ととらえることもできます。

例えば、家の中を「ここは妻の仕事スペース、ここは夫のパソコンエリアなど、間仕切りでエリア分けしたほうがいいかな」や、「平日のランチは、家族一斉には取らず時間差をつけて、各自それぞれで用意して食べないと大変だね」といった具合。いろいろ考えて試行錯誤してみる機会ととらえるといいと思います。

また、日本は総務省の調査でもこの20年間、共働き女性の家事時間がほとんど減っておらず、「ワンオペ」とも言われます。でもテレワークなら、夫も今まで以上に家事負担ができるはず。あるいは平日の日中、妻が家事に奔走する姿を見れば、「多少余分にお金を払ってでも、アウトソーシングしようか」という気になるのでは? とも。

アフターコロナの際には、夫婦両者の時間的資源配分(家事分担)をどう変えるか、じっくり話し合ってもいいですね。