女性リーダーの存在なき政治の悲劇

さて、日本は政治的分野におけるジェンダーギャップにおいては、他項目に比べても最低評価の144位でした。世界的に蔓延している新型コロナウィルスへの政治家の対応が後手後手で、国内外から強い批判が上がっていますが、異なる意見を聞き入れる体制が整えられていないというのも大きな問題の一つなのではないでしょうか。日本の衆議院議員の女性比率は1割程度です。対して、海外では政治家、そして国を代表する大使なども女性の場合が非常に多いのです。香港とシンガポールでは2017年に初めて女性の政治主導者(香港はキャリー・ラム行政長官、シンガポールはハリマ・ヤコブ大統領)が誕生しています。

イギリス初の女性首相で強硬な性格から鉄の女と呼ばれたマーガレット・サッチャーは次のような言葉を残しています。

「政治において、言ってほしいことがあれば、男に頼みなさい。やってほしいことがあれば、女に頼みなさい」

投資などにおいても、女性の方が物事を悲観的に捉えることで余計なリスクを取らない傾向がありますし、女性管理職が入ることで組織の不正や破綻確率も下がると言われています。女性に限らず、異なる意見を持つ人が組織に多く含まれていた方が有事の際に間違った方向に進んだりしにくいのではないでしょうか。

政府は「2020年までに社会のあらゆる分野で指導的地位の女性割合を30%にする」という目標値を掲げ、すでに2020年になっていますが、その数字は遠く及びそうにもありません。まずは政治の場から変えていかなければならないでしょう。

マッキンゼーがLeanIn.Orgと協力して実施している職場の女性に関する調査があります。2015年以降、調査に参加した600社近くの企業、職場での経験について調査された25万人以上の人々、および100以上の詳細な1対1のインタビューからのデータが凝縮されています。

調査の日本語での要約になります。

「過去5年間で、トップレベルの企業に昇進する女性が増え、多くの企業がリーダーシップでより多くの女性を持つことの価値を認識しているということです。それでも、女性はあらゆるレベルで過小評価され続けています。数字を変更するには、企業は実際の問題がどこにあるかに焦点を合わせる必要があります。私たちはしばしば、女性が上級指導者の地位に達するのを妨げる「ガラスの天井」について話します。現実には、女性が直面する最大の障害は、管理職への最初のステップで、パイプラインのかなり早い段階にあります。この歪みを修正することが、平等を達成するための鍵となるということです。

女性、特に有色人種の女性は、あらゆるレベルで過小評価されています。そして、パイプラインの初期段階で根本的な変更がなければ、女性の代表の獲得は最終的に行き詰まります」

ハーバード大学の医学部が女性に門戸を開くまでに100年かかったそうです。初めて入学を許されたのは戦後です。しかし、現在では女性医師のほうが質の高い診療をしていることを示唆する研究も数多くあります。

シンガポール在住、世界三大投資家のジム・ロジャーズ氏にも日本のジェンダーギャップについてインタビューをしましたが、女性が地位を確立するためには長い年月がかかるということです。アメリカも数世代に渡って戦い続けてようやく指導的地位に就く女性割合が高まってきました。

日本では具体的な努力や施作などが明確になっておらず、数字とメッセージだけが独り歩きをしているように感じます。ただ、数を増やせばよいだけではなく、指導的な立場となる女性を社会が育てていかなければなりません。女性は過小評価されている上に、既得権益の椅子取りゲームのために、初期の段階でマーケットから締め出されるケースも多いからです。