ファイナンシャルプランナーの花輪陽子です。2019年の日本におけるジェンダーギャップは、世界121位とアジアパシフィックで最低を記録。これは社会や企業にどんな影響を与えるのでしょうか。海外との比較で検証します。
事業進捗報告書について語る
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Yumi mini)

日本女性の地位はなぜここまで低いか

『スキャンダル』という映画が話題になっています。フォックスの創立者で元CEOのセクシャル・ハラスメントに対する女性職員の告発を描いています。また、「#MeToo(私も)」運動の引き金となった米ハリウッドの元大物プロデューサーに有罪判決が出ました。日本でも伊藤詩織さんが裁判で勝訴し、世界で大きく取り上げられました。

性暴力問題だけではなく、職場での男女平等に関しても日本は世界的にも極端に遅れています。2019年のジェンダーギャップ指数は121位と、2018年の110位からランクが大幅に下落、アジアパシフィックでは22位と最も低いランキングに。中国、韓国などもランキングは低いですが、日本はそれ以下となりました。

他方でシンガポールは67位から54位にランキングを大きく上げました。シンガポールは、マーケティングにおいても男女平等を示しており、経済参加と機会のサブインデックスで20位にランクされています(2006年と比較して25スポット上昇)。もともと、男性に兵役があり、社会に出るのが女性の方が早く、女性が出世しやすいという土壌もあります。

アジアパシフィックでのジェンダーギャップ指数(2019)ランキング

1位 ニュージーランド(カッコ内はグローバルランキング・6位)
2位 フィリピン(16位)
3位 ラオス(43位)
4位 オーストラリア(44位)
5位 バングラデシュ(50位)
6位 シンガポール(54位)
7位 タイ(75位)
8位 モンゴル(79位)
9位 インドネシア(85位)
10位 ベトナム(87位)
11位 カンボジア(89位)
12位 ブルネイ(95位)
13位 ネパール(101位)
14位 スリランカ(102位)
15位 フィジー(103位)
16位 マレーシア(104位)
17位 中国(106位)
18位 韓国(108位)
19位 インド(112位)
20位 ミャンマー(114位)
21位 東ティモール(117位)
22位 日本(121位)

参考資料:Singapore rises in gender equality ranking as Philippines slips

蘭ジェンダーNGOのエクイリープと公益財団法人笹川平和財団は、日本、香港、シンガポールにおけるジェンダー平等に関する企業ランキング トップ100を共同発表しています。その調査によると、それぞれがグローバルベンチマーク(53%)には届いていないものの、最もパフォーマンスが高かったのはシンガポール企業(42.3%)で、日本(35.4%)と香港(29.4%)に関してはベンチマークを大きく下回っています。

シンガポールの企業は経営陣の女性比率においてもグローバルベンチマークを上回っていました。一方、香港と日本の企業はグローバルベンチマークを下回る結果でした。職場におけるジェンダー平等ランキングを見ても、上位5位は全てシンガポールの会社で、6位に日本の資生堂がランクインしています。

シンガポールでは日本のように扶養に入っていると払わなくても支給される3号年金などもないために、女性も働かないと老後資金がおぼつきません。そのため女性も結婚、出産をしても働き続ける人も多く、若くして管理職についている女性も多いです。財布も別財布で夫に生活費をもらっていないという人(逆に渡していないという人)も多くいます。特に女性だからと甘やかされることもなく、昇進欲も強いです。

しかし、シンガポールをはじめ、海外の日本人コミュニティは日本社会の縮図になっており、平等が進んでいるとは思えません。特に駐在員コミュニティなどは日本よりも専業主婦率が高く、女性でビジネスをしていて目立ったりすると、足を引っ張ろうとする人もいます。一方、シンガポールでも欧米人や中国系、インド系などは、夫婦ともにグローバル企業の役職についているパワーカップルも多いです。

女性リーダーの存在なき政治の悲劇

さて、日本は政治的分野におけるジェンダーギャップにおいては、他項目に比べても最低評価の144位でした。世界的に蔓延している新型コロナウィルスへの政治家の対応が後手後手で、国内外から強い批判が上がっていますが、異なる意見を聞き入れる体制が整えられていないというのも大きな問題の一つなのではないでしょうか。日本の衆議院議員の女性比率は1割程度です。対して、海外では政治家、そして国を代表する大使なども女性の場合が非常に多いのです。香港とシンガポールでは2017年に初めて女性の政治主導者(香港はキャリー・ラム行政長官、シンガポールはハリマ・ヤコブ大統領)が誕生しています。

イギリス初の女性首相で強硬な性格から鉄の女と呼ばれたマーガレット・サッチャーは次のような言葉を残しています。

「政治において、言ってほしいことがあれば、男に頼みなさい。やってほしいことがあれば、女に頼みなさい」

投資などにおいても、女性の方が物事を悲観的に捉えることで余計なリスクを取らない傾向がありますし、女性管理職が入ることで組織の不正や破綻確率も下がると言われています。女性に限らず、異なる意見を持つ人が組織に多く含まれていた方が有事の際に間違った方向に進んだりしにくいのではないでしょうか。

政府は「2020年までに社会のあらゆる分野で指導的地位の女性割合を30%にする」という目標値を掲げ、すでに2020年になっていますが、その数字は遠く及びそうにもありません。まずは政治の場から変えていかなければならないでしょう。

マッキンゼーがLeanIn.Orgと協力して実施している職場の女性に関する調査があります。2015年以降、調査に参加した600社近くの企業、職場での経験について調査された25万人以上の人々、および100以上の詳細な1対1のインタビューからのデータが凝縮されています。

調査の日本語での要約になります。

「過去5年間で、トップレベルの企業に昇進する女性が増え、多くの企業がリーダーシップでより多くの女性を持つことの価値を認識しているということです。それでも、女性はあらゆるレベルで過小評価され続けています。数字を変更するには、企業は実際の問題がどこにあるかに焦点を合わせる必要があります。私たちはしばしば、女性が上級指導者の地位に達するのを妨げる「ガラスの天井」について話します。現実には、女性が直面する最大の障害は、管理職への最初のステップで、パイプラインのかなり早い段階にあります。この歪みを修正することが、平等を達成するための鍵となるということです。

女性、特に有色人種の女性は、あらゆるレベルで過小評価されています。そして、パイプラインの初期段階で根本的な変更がなければ、女性の代表の獲得は最終的に行き詰まります」

ハーバード大学の医学部が女性に門戸を開くまでに100年かかったそうです。初めて入学を許されたのは戦後です。しかし、現在では女性医師のほうが質の高い診療をしていることを示唆する研究も数多くあります。

シンガポール在住、世界三大投資家のジム・ロジャーズ氏にも日本のジェンダーギャップについてインタビューをしましたが、女性が地位を確立するためには長い年月がかかるということです。アメリカも数世代に渡って戦い続けてようやく指導的地位に就く女性割合が高まってきました。

日本では具体的な努力や施作などが明確になっておらず、数字とメッセージだけが独り歩きをしているように感じます。ただ、数を増やせばよいだけではなく、指導的な立場となる女性を社会が育てていかなければなりません。女性は過小評価されている上に、既得権益の椅子取りゲームのために、初期の段階でマーケットから締め出されるケースも多いからです。

台頭するESG投資にも乗り遅れる

さて、ESG投資の観点からも女性活躍推進は非常に大切です。Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)などの非財務情報を重要視する投資を推進する企業が増えています。

国連は2015年9月、「貧困をなくす」「ジェンダー平等の実現」など、17の目標からなる「SDGs(Sustainable Development Goals・持続可能な開発目標)」を全会一致で採択しました。日本でも急に「SDGs」という言葉が浸透しましたが、地球上に住む人々が、安心して暮らせる世の中をつくるために持続可能な世界共通の目標が掲げられました。

これを機に、国際社会のインベストメントチェーン(投資の連鎖)は、SDGsの概念に沿ったものに大きく変わり始めました。例えば、米資産運用大手ブラックロックはESGを軸とした運用を強化すると表明しました。2020年半ばまでに石炭関連会社への投資を大きく減らします。米大手投資銀行のゴールドマン・サックスの投資運用部門でも投資環境プロセスにESGの要素を取り入れることは顧客の資産運用の目的に資すると同時に、環境、社会の課題解決に貢献できると考えているようです。機関投資家以外にも個人投資家もESG投資への関心は急速に高まっていると言います。

日系企業の多くは環境やジェンダーの問題への対応が遅れています。生産年齢人口が減少する中、働く女性の活力を取り込まないと日本経済の明るい未来は考えられません。私には5歳の娘がいますが、彼女が社会に出た時に今と日本のジェンダーギャップが変わらなければ絶望的です。子供や孫の世代のためにも、労働者としても、投資家としても、正しいところに時間とお金を投下しないとならないと感じます。世界から見て、日本がおかしいと思われないようにも、円の価値を維持するためにも、この環境を変えていかなければ未来はおぼつかないでしょう。